07/09/23
オレと兄貴と私がいるから 第2話
兄貴は手際よく客間の布団を敷いて、そこにその人を寝かせた。その人はロングヘアーで顔もとても綺麗だった。兄貴より一つ二つ年上のようで何か誰かに似ている気がする。オレも兄貴も見守る事小一時間、ようやくその人が目を覚ました。その人が起き上がると同時にオレと目が合った。一瞬、驚いたような顔をして、すぐ嬉しそうな顔になった。むしろ、懐かしいものを見たような顔だった。その人とはやっぱり以前にあった事があるような気がする。そして、兄貴が話しかける。
「大丈夫ですか? 外で倒れていたのですが……」
「あ、はい。ありがとうございます」
その人は兄貴に向かって会釈をした。兄貴の顔は少し赤くなった。惚れたのだろうか……ちょっと面白い。
「何で、姉ちゃんはあんなところで倒れていたんだ?」
これからその人の事を『その人』ではなく『姉ちゃん』と呼ぶことにする。オレは姉ちゃんに聞いてみる。
「ちょっと、海晴? ごめんなさい、妹の口が悪くて」
兄貴は苦笑いをしている。口が悪くて結構。
「あ、良いんですよ。私……ちょっと、家出をしてきたんです。大事な人と喧嘩をしてしまって……」
姉ちゃんは微笑みながら言っている。まるで、本当は喧嘩なんかしていないみたいに……
「それで、私……行く当てもないので、もしよろしければこの家に少しの間だけでいいので泊めていただきたいのですが……」
両手を合わせて、申し訳無さそうにお願いする姉ちゃん。オレと兄貴は顔を見合わせて、戻す。
「いいですよ」
「少しじゃなくて、ずっと泊まっててくれよ」
意見合致。オレ達もだが姉ちゃんもとても嬉しそうだ。まるで家族みたいだ。
「そうと決まれば、自己紹介をしなくちゃな。オレの名前は『早瀬海晴』中学3年生、そっちが……」
「僕は『早瀬優斗』です。大学生をやってます。よろしくお願いします」
「私の名前は『ミハル』です。私も優斗君と一緒の大学生です。こちらこそよろくしお願いします」
オレも兄貴もとても、驚いた。なぜなら、オレと同じ名前だからだ。
「ついでに、名字は?」
オレが聞く。改めてみると、とても上品な感じで、何と言ってもルックスがとてもいい。兄貴が惚れても可笑しくは無いだろう。うんうん。
「名字は……秘密です。ごめんなさい」
「え〜、なんでだよ〜」
期待はずれの答えに、オレはがっかりする。
「あ、お風呂が沸いたのですが良かったら入りますか?」
気が付けば、客間の外から入ってくる兄貴。タイミングが悪ぎる。
「あ、すいません。では、お言葉に甘えて……じゃあ、また後でね海晴ちゃん」
姉ちゃんはオレに微笑みかけながらゆっくりと立ち上がり、洗面所に向かっていった。あれ、一人で行けるのかな? まあいいや。
「で、海晴は勉強でしょ?」
「はいはい、わあったわあった」
折角、お客さんが来ていい感じだったのにそれを断ち切った兄貴にちょっと腹立たせながらオレは部屋に戻った。
とはいえ、成績はあまりよろしくないオレは自分の顔と同じくらいの高さに積んである参考書とノートと睨めっこ。因みに夏休みの宿題は一日目に消化済み。
「さて、今日は数学っと」
勉強の仕方が分からないうえに塾なんてとんでもないため、まめな兄貴に相談をして受験までのスケジュールは組んである。五教科のローテンションで今日は数学だ。正直言って『あまり好きではないが少し得意』だ。
二次関数に図形に確立に……頭が痛い。やっぱり『嫌いであまり得意でない』と訂正しておこう。でも、やらなければ行きたい高校には入れない。参考書とノートを広げてシャーペンを持つ。
「わっけわかんねぇよ」
オレが暫く悩んでいるとノックの音が聞こえた。
「はい? どうぞ」
「ごめんね、邪魔だったかな?」
入ってきたのは姉ちゃんだった。風呂上りのためか体が火照っているようだ。オレは慌てて集中力を取り戻す。
「今日は数学やってんだ。受験生だもんね」
そうだ、忙しい兄貴には相談できないけど姉ちゃんなら分かるかもしれない、大学生だし。
「なぁ、姉ちゃん。ちょっと教えて欲しいところがあるんだけど、教えてくれないかな?」
「折角、泊めさせてもらうんだから、これくらいお安い御用よ」
「恩に着るよ」
てな訳でマンツーマンの授業開始。ゴングがあったら鳴らしたいが生憎手元には無い。
姉ちゃんの教え方は非常にうまくて、オレでも簡単に理解する事ができた。最近の出来事や色々の事も話しながらやっていたので、苦になる要素は何も無かった。いつもの三倍のペースで今日の勉強はお終いである。姉ちゃん曰く、やりすぎもよくないとのことだ。
マンツーマンの授業終了。今度、デパートにでも行ってゴングでも買ってくるかな。
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