07/09/30

オレと兄貴と私がいるから 第3話


「なぁ、姉ちゃんは将来、何を目指してるんだ?」

机の椅子に腰をかけているオレが何故かオレの部屋にあったパイプ椅子に座っている姉ちゃんに聞く。

「私は……教師になろうと思うの。できれば、中学校のね」

「何でだ?」

「ずっと前にね、私の家にお姉さんが来て暫く家に泊めてあげる事になったの。けど、本当のお姉さんじゃないけどね。その時、私がそのお姉さんに海晴ちゃんと同じ質問をしたの。返ってきた答えが『先生になる』ことだったの。そのお姉さんは、とっても優しくて綺麗で勉強の教え方もうまくて、憧れちゃってね。それで、私はお姉さんが帰ってしまった後も一生懸命勉強して、高校、大学と入学して、今があるかな」

「ふ〜ん。姉ちゃんにもそんな事があったんだ。それに比べてオレは……」

オレは関心しながらも少し凹む。オレは何を目指しているのだろうか。

「まだ、焦らなくても大丈夫だよ。高校に入ってから決めても遅くないと思うし。それに、そんなに頑張れる美晴ちゃんならどんな高校にもいけるよ、絶対」

姉ちゃんはオレの頭を撫でながら言った。少し照れくさいが、もっと頑張ろうという気になった。姉ちゃんの持ち上げ方もうまい。

「オレも、姉ちゃんが絶対にいい先生になれると思う。だから、お互い頑張ろうぜ」

「うん、ありがとう」

オレも姉ちゃんも自然と笑みがこぼれてきた。まるで、本当の姉貴みたいだ。けど、あくまで姉ちゃんは居候と言っても過言ではなく何時帰ってしまってもおかしくは無い。できれば、このまま……このまま……。

「海晴。お風呂入っちゃいな……あ、ミハルさん。海晴に勉強を教えてもらってたみたいで……ありがとうございます」

兄貴が部屋に入ってきた。タイミング最悪。空気読め、空気。辞書でも持ってきてやろうか。空気語の。

「いえいえ、折角ですのでお手伝いをと……」

姉ちゃんは誰だって幸せにできる笑顔を兄貴に送る。兄貴は動揺している。やっぱり……

オレはパジャマを持って、姉ちゃんと一緒に部屋を出た。オレは洗面所に、姉ちゃんはリビングへ向かった。正反対の方向だ。


その後、風呂から上がったオレはパジャマを着てそのままタオルを頭に乗っけてリビングに戻ってきた。

兄貴と姉ちゃんが仏壇の前に座っていた。丁度一年前、オレの両親の命日だ。オレも兄貴の横に座って手を合わせ目を閉じる。

元はと言えば、オレが旅行に行きたい何か言ってしまったからあのバスに乗りトラックに追突され……オレがいけなかったんだ。オレがあんな事を言ったから。自然と合わせる手に力が入る。ごめんなさい、ごめんなさい……

突然、スッと誰かがオレの事を優しく抱いた。驚いて、目を開け後ろを向くとそこには姉ちゃんがいた。姉ちゃんもとても悲しそうな顔をしている。

「自分の事を責めちゃダメだよ。だって、その時は分からなかったでしょ。それに、旅行に行きたいと思っていたのはあなただけじゃなかったんだよ。もしかしたら、こうなる事も運命だったのかもしれない。だから、責めちゃダメだよ……」

姉ちゃんの目からは水滴が出てきていた。涙だ。何で姉ちゃんが泣いてくれるのかは分からない。でも、オレにとっての柱ができた気がした。

「ね、姉ちゃん……」

オレはついに耐え切れなくなって、姉ちゃんを思いっきり抱きしめて思いっきり泣いた。もしかしたら、一年ぶりに泣いたかもしれない。今まで、どれだけ溜め込んできたかが分かった。無理をしすぎたのかもしれない。

そして、気が付いたら意識はなくなっていた。

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