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魔女の契約 最終話
合格が決まったリリィはその日の内に鍵を握り締め、無限空間へと向かった。
概観は何の変哲も無い小さな建物だが。
「広っ……!」
中は、魔力によって無限に続く空間となっていた。幅も奥行きも先が見えなくて目が回りそうだった。等間隔に獣が入った檻が並べられていて、「俺を選べ」と言わんばかりに獣独特の叫び声が鳴り響いていた。元々人間でも獣となってしまっては言葉は話せない。使い魔として使えれば主の魔力によって言葉が話せるようになる。
なお、獣は大型なものは『ドラゴン』『グリフォン』『ペガサス』小さなものは『ウサギ』『ネコ』『イヌ』など、まるでアニマルランドみたいだ。いや、事実なのだが。
手前の檻の端に何時入れられたのか記されているものがあった。
「え゛……160年前って」
リリィは驚いた。手前から奥に奥にへと収容されていくため、この一番手前のグリフォンが一番古い獣だろう。
どれだけ、奥が一番最深部なのか。リリィは絶望を感じながら右手を広げ箒を出現させた。そして、またがって全速前進で奥まで進む。
獣の遠吠えを聞きながら進む進む数十分。
「どあえ!」
壁に激突して箒が消滅した。更に間抜けに落下した。
「痛た……」
打った背中を擦りながら起き上がる。ようやく最深部に辿り着いた。入り口の辺りように檻は無かった。
少し辺りを見渡して、檻の中を眺めてみる。
「トカゲ……おめぇには用はねぇよ!」
檻を荒く蹴飛ばした。がたんとすごい音をさせて檻は倒れた。中身は気にしない。
トカゲの檻が動き、その奥の檻の中が見えた。
黒い身体に黄色い瞳。黒い猫が檻の中で眠っていた。日付は今日。
「起きなさい!」
足で少し荒く檻を揺らした。中で黒猫が転がって飛び起き上がった。
「あんた、グレイね?」
黒猫は「にゃあ」と答えた。
「あんた、こんなわたしのサポートする気ある?」
黒猫は「にゃあ」と答えた。
「あんた、ここから出たい?」
黒猫は「にゃあ」と答えた。
「……あぁ! もう!」
リリィは檻の鍵穴に鍵をぶち込んで開けた。ついでに蹴飛ばす。檻が開き、鍵が消滅する。これによりが、主と使い魔の契約が結ばれた。そして、中身は蹴飛ばされた衝撃で放り出され空中を一回転して見事に着地した。小さな黒猫がリリィを見上げていた。
「べ、別にあんたが変な奴に下僕にされないようにわたしが選んだわけじゃないからね?」
「わかってるよ」
黒猫は言葉を話した。リリィの魔力によるものだ。
「ちゃんと、わたしのサポートをしなさいよね」
「うん。わかった!」
リリィはグレイを抱きかかえて、箒を出現させまたがった。そして、来た道を今度はゆっくり戻る。先程の倍は時間がかかるだろう。
「あのさ、あんた。もし、変な奴の使い魔になってらどうするつもりだったの?」
「別に、僕はその人のために尽くすまでだよ。たとえ、下僕となって命を落とそうとも」
「後、こんな駄目なわたしでも良かったの?」
「うん。だったら僕は君のために全力を尽くそう」
「本当は、一人が寂しかったんじゃなかったの?」
「そうかもね」
「だったら……」
リリィは言葉を詰まらせて、赤面した。
「だったら、わたしがいつもいてあげなくてもいいけど」
「それは、僕は君の使い魔だから」
「そうじゃなくて!」
りりぃは否定するために怒鳴った。
「もし、あんたが認められてもとの姿に戻っても。あんたを手放さないってこと。恥ずかしい事言わせないでよね!」
「……ありがと。そんなこといわれたら、僕も頑張らなきゃいけないなぁ」
「じゃあ、まず『地獄の火炎(インフェルノ)』を見せてよ。簡単でしょ?」
「ここで?」
「ここで」
「わかった」
そして、グレイは呪文を詠唱して魔方陣大きな火柱を出した。使い魔サイズではあったものの完璧な『インフェルノ』だった。天井は焼け焦げ、地上にいた獣たちは衝撃で皆倒れていた。
「あんたと一緒なら、なんでも気がするよ」
「僕も、そんな気がするよ」
1人と1匹。いや、2人は微笑みあって、無限と続く空間の外へ向かった。
――一組のベストペアが生まれた瞬間だ。
その後、少女と使い魔は少しずつ成長し様々な者に認められるようになった。最高の雷火使いとそれを支える万能使い魔と。
そして50年ほど経ち、彼女達は戦場へ駆り出される事になった。これで、名を轟かせば使い魔は元の姿に戻す事ができると信じて雷火使いは最高のベストパートナーと共に戦場へと赴くのであった――