08/02/11

フタツヤネノシタ 最終話


*自宅*

僕は早瀬さんを家に送った後、帰宅した。すぐに自分の部屋に入ってベットに伏せた。


――オレはどうすればいいんだよ。

僕だってわからない。

――亜衣を見捨てろって言うのか?

見捨てる訳じゃない。

――何か答えろよ。

ごめん。


早瀬さんの家に向かっているときに、会話した内容が頭を廻った。あの時は何も答えられなかった。

明日も橘病院に行く事を決めている。早瀬さんは最後に『オレ、明日バイトあっから15時くらいでいいな!』と言って家に入っていったからだ。

――ねぇ、僕はどうすればいいの?


*312号室*

次の日の14時30分。僕は早瀬さんとの約束の時間より早く来ていた。僕は亜衣さんの横に座っている。

「あのさ……」

亜衣さんは何か言いたげに話しかけてきた。

「何?」

「あのさ、永治君は『マネキン』と『フィギュア』のどっちが好き?」

「え?」

一瞬、何を言っているのかがわからなくて、思考がストップした。でも、すぐに思考回路が復活した。もしかして、亜衣さんは『死期』を悟っているんじゃないかと。

「それって……」

「どっちか答えて!」

亜衣さんの視線と声がが僕の胸に突き刺さった。

「僕は……『フィギュア』の方がいいかな? そんな趣味は持ってないけど『マネキン』より、生きてる感じがするかなってね」

「……じゃあ、あたしが人として死んだら、あたしは『永治君のフィギュア』にして欲しいな」

それって、一種のプロポーズ? いやいや、それは無い。

「……わかった。約束するよ。君がどこにいても毎日会いに行く。誰かが反対しても、君を奪うつもりで反発する。だから――」

なに僕まで、亜衣さんがもう駄目だということを悟るような事を言ってんだ。なんで……

「ありがとう。じゃあ、もう一つ約束を作っていい?」

「……うん」

顔が熱い。熱があるみたいだ。もう、風邪は治ったのに。

「もしあたしが死んだら、その時は……」

言いかけていると、『あの変化』が起こった。しかも、今まで異常に水蒸気のようなものが噴き出していた。多分、これが最後の変化だ。

「永治……君」

苦しそうな顔をしている中、亜衣さんは僕の名前を呼んだ。

「な、何!?」

僕は立ち上がって、亜衣さんが僕を見ることができるくらいのところまで移動した。

「初めて会ったときから、好きだったみたい。これって、一目ぼれって言うんだよね?」

「僕も、そうだったよ。何だ、お互いに一目ぼれをしてたんだ」

「そうだったんだ。よかった……後、海晴ちゃんによろしく言っておいて欲しいな」

「わかった」

駄目だ。僕には何も出来ない。亜衣さんの変化は、頬・髪と来て、更に目まで侵食していた。時間が無い。 bb  「……あたし、永治君のことが好き。だから、ファーストキスは永治君とがいいな」

亜衣さんが微笑みを浮かべたところで完全に変化が止まった。『人間として死んでしまった』

僕の目からは涙が出てくる。別に完全に死んでしまった訳ではないのに。でも、約束は果さなければいけない。

僕は顔を亜衣さんの近くまで寄せた。

「ごめんね。最初の人間が僕なんかで……けど、約束だもんね……でも、僕なんかで本当にいいのかな?」

僕は1人で赤面して、馬鹿みたいだ。僕は目を閉じて顔をさらに近づけ。優しく口付けをする。

『少女……のような等身大フィギュアに』


その瞬間。ドアが開かれた。

「お、おい……」

その後、寝に涙を浮かべる早瀬さんに蹴飛ばされたのは内緒だ。


――病院と家。二つ屋根の下の物語。

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