08/02/11

フタツヤネノシタ 第1話


「ごめんね。最初の人間が僕なんかで……けど、約束だもんね……でも、僕なんかで本当にいいのかな?」

僕は1人で赤面している。馬鹿みたいだ。僕は目を閉じて顔を近づける。そして、優しく口付けをする。

少女……のような等身大フィギュアに。

*who is the boy?*

4月某日。某日というほどでもないけれど、僕はその日の朝。目覚めた瞬間に、突然の高熱で気を失った。これは2度寝といっても過言ではないかもしれない。もう一度、目を覚ましたのはお昼前だった。学校なんて遅刻なんてものではなかった。もう向かうのはやめよう。頭が痛い。体が熱い。寒い。苦しい。死にそう。

……と、言っても心配してくれる人はいない。父親はこの世から既に旅立ち、母親は昼夜問わず不定期に出稼ぎに向かう。どんな仕事かは知らない。しかも、その出稼ぎに昨日出てしまったばかりだ。

本当に死にそうだ。体温計で熱を測ってみた。


――43.1℃。ありえない。死ぬ。いっそ殺してくれ。


でも、死にたくない。しょうがない。

僕は、身支度をして病院へ向かう事にした。

鏡を見て長めの髪を整える。肩までかかっていないものの、このさらさらの髪と、白めの肌や顔立ち、高めの声……そのせいでしばしば女子に見られる。

文化祭の劇では女子役をやらされたし、普通の生活をしていてもまれに女子に拉致られ、女子の制服を着させられたうえに写真を撮られる。極めつけは中学時代に自分の事を『オレ』と呼ぶ男勝りな女子に無理矢理引っ張られ、そういう店に入れさせられたことがある。危うく店員さんにスリーサイズを測られそうになった。すぐに自分は男だと説明すると『男の子にしておくのがもったいない』といわれるほどだった……とか、思い出しながら身支度を完了して家を出る。

家から徒歩10分。『橘病院』へ。


*橘病院*

何度も走馬灯や三途の川をみながらも、病院にたどり着き受け付けに保険証を叩き付け力尽きへたり込んだ。

『田村 永治(たむら えいじ)』17歳。保険証に刻まれている名だ。

受付の看護師さんに支えられながら診察室へ向かった。

診察室に入るとすぐに患者用の丸椅子に座った。

「どうしましたか?」

いかにも、人付き合いが苦手そうな男の先生だった。名札には『大谷 知博(おおたに ともひろ)』とあった。

「えっと、熱が43℃あって、今にも倒れそうなんです」

とかいいつつ、体が倒れた。それを大谷先生が受け止めてくれた。

「す、すいません」

その後のことは、覚えていない。意識が飛んでしまったようだ。


*what is the room?*

僕が目を開けると、真っ白とな天井が目に入った。病室?

寝返りを打つと、今僕が寝ているのはベットであり、点滴が打たれているのがわかった。本当に死にそうだったんだ。しかも、窓の外はオレンジ色になっていた……

突然のノックの音。

「はい」

僕が返事をすると、病室のドアが開かれた。

「田村君、目を覚ましたんだ。本当に危なかったんだよ」

「はい」

やっぱり、そうだったんだ。優しそうな、女の人。看護師さんが微笑んでいた。名札には『新井(あらい)』って馬鹿馬鹿しい。容易に人の名札を見るのはやめよう。

「けど、その様子だと、大丈夫そうだね」

「はい」

新井さんは丁寧に、僕の腕から点滴の針を抜いた。若いのに上手いな、とか思ったがこれが普通なのかもしれない。何せ、病院のベットで寝たのも点滴を打ったのも初めてだったからだ。

「じゃあ、1人で1階まで行ける?」

「あ、大丈夫です」

そういうと、新井さんは少し何かを言った後、去っていった。流石にまだ熱があるようで、聞き取る事が上手くできなかった。しかも、ここからどうやって1階まで行くかは知らない。思わず、大丈夫といってしまったのである。

まぁ、どうにかなるだろう。ふらふらと右往左往しながら、廊下を歩いた。しかし、なかなか階段にたどり着かない。

「……迷った?」

人は誰も歩いていないし、このまま出れないかもしれない。絶望をしたとき、20m位前の部屋から何人か出てきた。新井さんと看護師がもう1人と、40代位の女の人。何だか、話しかけにくいような雰囲気がでている。もしかして、部屋の中の人は……

看護師さんたちがいなくなるのを待ち、僕は部屋の前に向かった。無用心にもドアが開いていた。中に入るとそこには……


――ベットに同い年くらいの少女が座っていた。

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