08/01/27

おにぎり落ちたそのまま食べた 第4話


薄暗い洞窟の中、2人は追っ手から逃げ続けていた。

走っているうちに、尻尾が生え、爪が伸び、順調にネズミ化していた。それでも、足を動かし続けた。さもなければ、記憶を消されたうえにネズミの国で一生を過ごす羽目になる。

しかし、ノゾミもユタカも体力的に限界が近づいていた。

「はぁ……はぁ、ごめん。私無理かも、この手を離してユタカだけでも逃げて」

ノゾミは苦しそうに言った。その一言を聞いて、ユタカは手を強く握った。

「痛っ」

「駄目だよ。諦めちゃ駄目だよ。君を一人でこんなところに残してはいけないよ。あのさ、相談何だけどさ……」

突然、ユタカは照れくさそうに顔を赤くしていた。明らかに走って、という赤面でなかった。

「何?」

「ここから脱出できたら、僕のか、か、かの――」

突然、追っ手のネズミたちの声が大きくなりユタカの声が消されてしまった。なんと、この先の分かれ道の片方からもネズミたちがやって来てしまった。

「よく聞こえなかったけど、いいよ。何でもいいよ。だか……ふぇ?」

ユタカはノゾミの返事も聞かずにノゾミの身体を持ち上げて、お姫様抱っこみたいになっていた。むしろ、お姫様抱っこそのものだ。

「男は『守りたい人』がいると、強くなれるんだ!」

「ユタカ……」

とんでもない速度で走る勢いだったユタカだったが、お姫様抱っこの姿勢は走るのには明らかに不向きである。誰もいない分かれ道のもう片方へ向かった。ネズミたちの方の追い蹴れる速度の方が上だった。もう、追いつかれてしまう。

「ごめん。もう、無理かも……」

ユタカもノゾミも諦めかけたとき、ネズミたちの叫び声が聞こえた。

「え……!?」

2人は振り返った。そうすると。あの、目に傷があるネズミの後姿。追っ手のネズミたちは、倒れている。

「今の内に行くんだ!」

こちらにも向かずに叫んだ。

「なら、あなたも一緒に!」

ノゾミは叫んだ。だが、彼は首を横に振った。

「それは無理だ。もう、ここまで堕ちてしまった。戻る事はできない。でも、記憶はよみがえった。礼を言おう……最後に、つかの間の夢を見せてくれてありがとう。我が娘よ……」

新手のネズミたちが来たようで、大勢の声が聞こえ始めた。彼は、立ち向かうかのように歩み始めた。

「待って……!」

ノゾミはお姫様抱っこをされた姿勢で手を伸ばした。彼は、立ち止まった。

「ユタカといったか。ノゾミを連れて行ってくれ。何処へでも行ってくれ。その先に行ったところに大きな穴がある。勇気を持って飛び越えるんだ。今も、この先も……だから、早く!」

そういい残すと、一息するまもなく彼の姿は消えていた。少しの光を残して。ノゾミは、ユタカの身体に顔を埋めていた。

ユタカは黙って、いわれた方向に進み始めた。

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