07/12/31

いのししレース ピキョ村のキピ 中編


キピの顔に朝日が覗き込んだ。そして、ゆっくりと起き上がったが前日の悔しさは全くといって良いほど抜けてはいなかった。

「……はぁ」

それにしても、随分外が騒がしいようだった。それが気になったキピはだるい体を動かして急いで外に出てみた。

「ウ、ウリ!?」

キピが外に出てみると、ウリがボロボロになって横たわっていた。その周りには前日の少年達が群がっていた。

「この『亀』の飼い主が来たぞ。こいつの顔も頼り無さそうでピッタリだ」

そう言って、少年の一人が足元に落ちていた小石をキピに向かって投げた。その石はキピの頬を掠めてそこから一筋の血が流れた。

しかし、キピは肩を震わせてたが悔しさで声が出せなかった。


「おい! お前達、何やってんだ!」

突然、何者かが少年達を怒鳴った。

「ヤバイ、行くぞ」

そして、少年達は去って行った。

「キピも言い返せるようになりな」

その少年達を怒鳴ったのは、いのししレースのチャンピオン『キロ』だった。

キピとキロは幼馴染みの関係にあり、キロの方が一歳上でキピが困っている時はいつも助けてくれるのである。

「僕……悔しいんだ。ウリがあんなこと言われて」

キピの目には涙が溜まっていた。

「じゃあ、特訓すればいいじぁないか」

キロは言いながらキピの頭を撫でた。

「でも、ウリがこんな性格だし……」

キピは自信が無さそうに答えた。

「それはどうかな? ……なぁ、ウリ」

キロはそう言うとウリの体をそっと撫でた。すると、今まで起きているのか寝てるのかわからない位しか開いていなかったウリの目が突如くわっと開いた。

「コイツもやる気のようだが?」

「ウリ……よし、行こう!」

キピはウリに飛び乗った。


「で、行く宛てはあるのか?」

「……あっ、無いや……どうしよう」

「……そうかと思ったよ、俺が使っている場所があるからついて来いよ」

キロはやれやれという顔をしながらキピの家の裏にある森の方向へ歩いていった。

木が生い茂りすぎて太陽の日が入ってこない森を越えると、結構広い木の生えていない部分……すなわち、ウリの特訓をするには打って付けの広場が存在した。

それを見て、キピもウリも目を丸くしていた。

「すごいだろ? 好きに使っていいからな」

キロはそういうと、180度回転して走り去っていった。

「あれ、キロ? ……まぁ、いいやじゃあやろうか」

キピはウリの上に乗った……


〜初の月〜

「今月はひたすら走ってスタミナをつけよう!」

キピはウリの横について一緒に走りだした……が、すぐにキピがウリを追い抜いてしまう。

「ねぇ、ウリ? 大丈夫?」

しかし、ウリは寝てるか云々の目をしていた。

「……まったくもぅ、大丈夫かな?」

毎日毎日このようなことが続いた。


〜雪の月〜

広場には雪が結構積もっていた。

「……多分、スタミナはついたかな?」

心配そうにしてるキピを見て、ウリは鼻息をかけた。

「……じゃあ、今日は……雪掻きして、もらおうかな?」

ウリはすぐに動き出した。しかし、動きはゆっくりで雪掻きしたとこるから雪が積もっていく。

「ウリ……あのさぁ、これじゃあ雪掻き終わらないよ……」

キピも道具を持ち出し雪掻きを始めた。


そして小一時間が経過した。キピが辺りを見渡すと、ウリの姿が見えなかった。

「あれ? ウリは、どこに行ったのかな?」

目を凝らすと、雪がモゾモゾ動くところがあった。そこからは、ウリがゆっくり出てきた。

「ねぇ、ウリ? ・・・…もぅ」

この作業は一ヶ月経っても終わらなかった。


〜初春の月〜

広場の雪は溶け始めて、地面からは緑が見え始めた。

「……う〜ん、今月は広場の端っこをぐるっと走ろうか?」

ウリはゆっくりと広場の端へ行き、ピタッと止まった。

「どうしたの?」

キピはウリの体を触った。

「……そっか、僕と競争したいんだね。負けないよ」

2人は同時に走り始めた。初の月ではすぐにウリを抜いたキピだったが、キピはなかなかウリが抜かせなかった。

「ウリ! 速くなった!?」

キピはうれしい反面、くやしさもあった。

1週目は平行に走っていた両者だが、2週目からキピは疲れ始めたのか、ウリに少しずつリードされていった。しかも、何週走ってもウリの速度は全く変わらなかった。

このトレーニングはキピもウリも楽しんでいたので、あっという間に「春の月」「子の月」と過ぎていった。

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