07/12/25
祭囃子〜聖なる夜に〜 前編
「今日は一段と寒いね」
「そうだね」
12月某日前日。雲の分厚い空の下、少年と少女がスーパーのビニル袋を提げて歩いていた。
少年の名前は『森本 祐樹(もりもと ゆうき)』といい、この辺りの高校に通っている。この祐樹だが、不思議な能力を持っていた。それは――
『よう、兄弟。オレッチ寒くて敵わねぇ。早いとこ帰ろうぜ』
「わかってるよ」
話しかけたのは少女ではなく祐樹の着けているウエストポーチである。実は祐樹の能力とは『触れた物と会話する能力』である。
「ふふっ、じゃあ、走って帰ろうか?」
少女は微笑みながら祐樹の手を握っていた左手を離して、一人で小走りになった。
この少女の名前は『林 まつり(はやし まつり)』推定17歳。何故推定か、それは何を隠そうまつりの正体はこの辺りの神社の狛犬なのだ。冬に行われる祭りで何故か人間の姿となり、そのまま戻れなくなってしまったのである。もともとが物のまつりは必然的に祐樹と同じ能力を得ている。今は、祐樹の家で暮らしている。祐樹は両親を説得して、了解を得ているのである。しかし、祐樹の両親はというと、自分達に娘が出来たかのように接し、まつりは浴衣以外の服を持っていないと聞くと、すぐさま一通りそろえてしまう始末である。そして今は、12月某日の準備のための買い物中であった。
「祐樹〜! おいてっちゃうぞ〜!」
まつりは一人でさっさと、小走りで先に行ってしまっている。
「あれ? ちょっと、祐樹?」
まつりは倒れている、白髭のおじいさんを発見した。それにすぐ気がついた祐樹は走ってまつりの元へ向かっていった。
――白髭のおじいさんは普通のズボンを着用して普通のコートを着ている普通のおじいさんであった。
「大丈夫ですか?」
祐樹がおじいさんの事を軽く揺すってみた。すると、おじいさんは気が付きゆっくり起き上がった。
「あぁ、ありがとう」
おじいさんは起きているのが少し辛そうだった。
「どうかしたんですか?」
まつりが優しい口調で聞いた。
「今日、大事な仕事があるから準備をしていたんだがな、突然ぎっくり腰になってしまってな……イタタ、仕事があるのに困ったな」
おじいさんは腰に手を当ててすごい辛そうだった。
「じゃあ、私がお手伝いをしましょうか?」
「え……!」
おじいさんと祐樹が思わず声を出した。
――そしてその夜、祐樹とまつりは空を飛んでいた。ソリに乗って、空を飛ぶトナカイに連れられて。あのおじいさんの仕事とは――
「すごいすごい、空飛んでるよ! ほら、町の明かりが綺麗」
地上を指をさしてはしゃいでいる。その反面祐樹はというと。
「なんで、俺らがこんな事してる訳?」
と、頭を抱えている。祐樹もまつりも赤い服を着てまるでサンタボーイとサンタガールのような格好をしている。むしろ、そういったか格好をしている。
「まぁ……いいや、全部配っちゃおうぜ」
祐樹たちの席の後ろには大きな白い袋が乗せてあった。
――最初についたのは、少し小さめの一軒家の二階。
「えっと、袋を持って……ノックすりゃいいのか?」
祐樹は袋を背負ってベランダに飛び移った。そして、窓をコンコンとノックした。『なんだろうと?』少女の声がして、窓が開けられた。
「……誰?」
少女は冷ややかな対応をした。部屋の中にはその少女とは別に眼鏡と小さいのとボウズの3人の少年がいた。部屋の中心にあるテーブルを見ると、参考書が大量においてあった。きっと勉強会をしていたのだろう。
「俺はサンタ代行さ。ほら、君たちにプレゼントだ」
祐樹はそれぞれにラッピングされた箱を渡して足早に立ち去った。
「メリークリスマス!」
*o*
「……結局誰だったんだろう」
オレは疑問に思ったが、寒かったので窓をピシャリと閉めて学(まなぶ)・健太(けんた)・翔(しょう)の方に向き直った。
「まぁ、いいから開けようぜ。海晴(みはる)」
そういって、一足早く箱をあけたのはちっこい翔だった。
「……なんだこれ」
入っていたのはいかにも難しそうな参考書。オレらでこの問題を解ける奴はいないだろう。
因みに、オレのにも健太のにも学のにも同じ参考書が入っていた。なんなんだったんだ……あれは、本当にサンタクロースだったのか?
突然、ノックと共にドアが開けられた。兄貴だ。兄貴はお盆を持っていた。
「海晴。コーヒー淹れたから、ここに置いておくね」
「わかった」
オレが返事をすると、兄貴は「がんばってね」と言って、部屋から出て行った。
さて、もう一頑張りしますか。
***
祐樹とまつりは次の目的地に向かっていた。
あまり、離れていないが一軒家で二階というのは変わっていなかった。
「じゃあ、今度は私が行ってくるね」
そう言って、まつりは袋を持って家のベランダに飛び移った。
窓をコンコンとノックをすると、まつりと同い年くらいの少年が出てきた。
「……誰ですか?」
冷ややかな対応。
「私、見ての通りサンタクロースです」
「そうですか……」
「だから、これあげる」
まつりは一瞬窓の中を覗き込んだ。同い年くらいの少年と少女二人と後、白いワンピースを着て浮遊している少女が一人。人数を確認して、箱を五つ渡した。
「じゃあね。メリークリスマス!」
「あぁ、どうも……」
そして、少年がポカンとする中、まつりと祐樹は出発した。
*t*
さて、誰だったんでしょう?
僕はとりあえず、箱を義樹(よしき)・春香(はるか)・白井(しらい)さん・あくりょうちゃんに渡しました。
「なんだろうな? これ」
「とりあえず、開けてみない?」
「……本」
と、もうそれぞれで箱を開けてます。僕も開けて見ます。
――折りたたみ式自転車だ! 別にほしくないのですが……
「バットだ! 欲しかったんだよな」
「これ、バイクの――」
「……これ、面白い」
まぁ、義樹も春香も白井さんも喜んでいるようで……
そして、あくりょうちゃんの箱の中から出てきたのは……
「瞬間接着剤!?」
大きい、メタリックボディの瞬間接着(らしきもの)がでてきました。何で?
「にはっ♪」
何で、ご機嫌なの? そして、それをかけないで。い、息が出来ないよ。もう固まっちゃってるよ。助けて、助けてあくりょうちゃん。
「まぁ、パーティーのお続き始めようぜ」
「そうだね」
「……うん」
待って、みんな、僕を、僕を忘れないで――そして、僕はあくりょうちゃんに真っ二つにされるのでした。
「にはっ♪」
***
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