07/12/25
あの青空に祈りを捧げ 第9話
・其処にいる理由は
俺はハッとした。彼女は俺に話を聞いて欲しかったのだと。
「……俺でよかったら、その……なんで入院しているか聞かせてもらってもいいかな?」
「はい」
彼女は俺の事を見て満天の笑みを浮かべた。俺は少しドキッとした。
「あたし、生れつき肺が悪くて幼稚園や学校を休みがちだったんです。少し運動しただけで、息が上がっちゃうし、とても大変でした。そして、あたしが中学生になったときに肺が更に悪くなってしまって、入院する事になったんです。お陰で、中学校は行けずに卒業は形だけになってしまいました」
「手術はしたの?」
俺が聞く。すると、彼女は少し下を向いて答えた。
「それが、あたしの肺を治すには『移植』しかないそうです」
俺の脳裏に衝撃と共に『移植』という二文字が浮んだ。彼女の病気はそこまでだったのか。
「肺は母の肺の片方を移植する事が決まっているのですが……やはり、成長期の体と成人の体とでは肺の大きさが違うということで、まだ手術が出来ないそうです」
「そうなんだ……」
「……けど、あたし怖い」
「え……?」
彼女の声が震えていた。体も震えていた。
「成功率はまだ教えてもらっていないのですが、もし、失敗した時の事を考えたらすごい怖いんです」
彼女はうつむき、光る雫を落としていた。それは、彼女の涙だ。手術……確かに、失敗し時を考えると怖い。でも――
「大丈夫。優衣さんに限ってそんな事――」
突然彼女は俺の肩に手を乗せて、顔を俺の胸に当ててきた。彼女の身長は俺の肩くらいまでしかなかった。けど、よっぽど彼女のほうが大きく見えた。俺は、優しく腕を彼女の背中に回した。そして、空を見上げて……あの青空に祈りを捧げた。
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