07/12/29
あの青空に祈りを捧げ 第10話
・其処にいる理由は
俺が彼女を慰めていると、屋上の鉄製のドアがバンッと音をたてて開かれた。俺と彼女は振り返った。ドアの方向には、白衣の男性が立っていた。
「あ……」
彼女は言った。
「あっ……!」
俺は言った。
「ああっ!」
男性は叫んだ。
「えぇっ!」
俺と男性は同時に互い指をさして、叫んだ。彼女は何がなんだか分らない様子だ。
「優衣。そろそろ、検査の時間だろ? ちょっと、一人で戻っててもらえるか?」
「あ、はい……」
彼女は俺らの事を気にかけながら戻っていった。
「……さてと」
その男性はフェンスに背を向けて寄りかかった。俺もフェンスに寄りかかる。
「おい、知(とも)兄貴。何でここにいるんだよ。いきなりいなくなったっておばさんが心配してたぞ」
何を隠そう、この男性は俺の従兄弟『大谷 知博(おおたに ともひろ)』である。確か、12歳差だから、知兄貴は29歳か。数年前に突然姿を眩まして、親族中で騒動となった。携帯電話から何まで連絡できるものは何も残さなかったそうだ。そんなのが、こんなところにいるなんてビックリだった。
「……そんな事もあったな」
「そんなことじゃねぇよ」
俺はキレ口調で言った。
「……まぁ、元気そうで何よりだ。ところで、何でお前がこんなところにいるんだ?」
話を切り替えやがった。いつも知兄貴は都合が悪くなるとこうだ。
「話すと長くなるけどな――」
一通り説明してやった。知兄貴はフーンと興味があまり無さそうに答えた。お前が聞いてきたんだろ。
「それで、知兄貴は何でこんなとこにいるんだ?」
「あ、俺? 見ての通り医者になった訳だ。それで数年前に優衣の主治医になったんだな。新米だった俺に主治医をやれだって、なんて上司なんだってお話な訳だな」
知兄貴は苦笑いをしながら、白衣のポケットから赤い箱を出した。棒状のビスケットにチョコがかかったよく見る菓子だった。箱から袋を出して、中身を口にくわえた。
「タバコはダメだからな。これで我慢だ」
そして、口にくわえた菓子を上下に動かしている。
「なぁ、知兄貴。優衣さんの病状はどうなんだ?」
俺が聞くと、知兄貴は上下運動をやめた。
「……お前。どういうことか分ってるよな?」
「わかってる」
「知らないほうがいいって事もあるんだぞ」
「わかってる」
「……そうか、じゃあ、特別に話してやるよ」
知兄貴は菓子を飲み込んで、語り始めた。
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