08/10/15
あの青空に祈りを捧げ 第23話
・友達〜輪は大きく広がる〜
何だか会話が続かない。相変わらず隣の部屋からは声が聞こえてくる。
俺はその会話に耳を傾けてみた。
『ボク元気だよ。何でまだ部屋から出ちゃダメなの?』
あぁ、叶音の声が聞こえる。駄々をこねる感じの口調だ。やっぱり、俺の苦手なタイプだなありゃ。
『だぁ! うるせぇ! 折角包帯取ってやりに来たのに「もぬけの殻」ときたもんだ。そもそもだな、包帯して目が見えないってのに部屋から出て危ないだろ?」
知兄貴の声も聞こえる。
『病院だから危なくないでしょ? それに隣のお姉ちゃんの部屋に行くだけなんだよ』
いや、その理屈はおかしい。病院でも十分に危ないだろう。例えば……えっと、ボケた爺さんがやってきて知兄貴みたいに拉致ってくとか……まぁ、それはないだろうが(むしろ、あったら俺でもビビるな)
『わかった、俺は帰る。包帯取ってやんねぇ。折角来週から学校に行けるのにな。延期だ延期だ。残念だ』
『わー! 先生帰らないで、取ってから帰ってよ。ボクが悪かった。だから――』
『ちょ、待て! 何処を掴んでんだ、俺の太もも掴んでんじゃねぇよ。やめ……わかったわかった帰らないから離せ――』
まるでコントか何かだな。俺は再び吹いてしまった。面白いったらありゃしない。すると、彼女もクスクスと笑っていた。なんだ、彼女も聞いてたのか。
「元気いいな」
「そうだね……叶音ちゃん、早いうちに学校に復帰するって言ってたけど、もう来週なんだ……」
「みたいだな」
彼女は窓の外をしていた。きっと、彼女も学校へ行きたいのだろう……
『おい叶音! 待て! うわぁ!』
隣の部屋から知兄貴の叫び声が聞こえた。と、一瞬かニ瞬か経った時、叶音が彼女の病室に入ってきた。
「じゃじゃ〜ん」
誇らしげに効果音を自分でつけていた。叶音の包帯はなくなっていて、綺麗な目が輝いていた。
「かわいいね。叶音ちゃん」
「嬉しいな。お姉ちゃんに褒めたれちゃった」
叶音は嬉しそうにベットに飛び座った。本当元気だな。
「ボク、来週から学校に行くんだ」
嬉しそうに語る。だが……
「悪いが、丸聞こえだったぞ。残念だが俺も優衣も、もう知ってる」
そうだ、丸聞こえだった。
「が〜ん」
叶音はまた自分で効果音をつけて、後ろに倒れた。
「けど、うらやましいな」
彼女は微笑んでいた。けれども、裏では寂しそうな口調だった。
「お姉ちゃんも、きっと行けるよ」
叶音が言ったそのときだった。
「くぁぬぉおん!!!」
最早、日本語にすら聞こえないような叫び声で、知兄貴が部屋に入ってきた。なんか、びしょびしょになってところどころ花びらがくっ付いていた。察するに、花瓶の中身をぶっかけられたのだろう。流石叶音だ。
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