08/01/20
あの青空に祈りを捧げ 第13話
・彼女との関係は
「まぁ、説明は終りだ。行ってやれ、彼女を……頼むぜ」
知兄貴は親指を立てて腕を前に出した。
「……その前に一つ、聞いていいか?」
「ん、なんだ?」
知兄貴は不思議そうに答える。
「『青空に祈りを捧げる』のは、何回までだと思う?」
「はぁ? なんだそれ……まぁ、ランプの魔人しゃないが、三回までじゃないか?」
「そうか……ありがとう。知兄貴」
俺はそういって、診察室から飛び出そうとした時、知兄貴に呼び止められた。
「そうそう、俺とお前は病院内では赤の他人としておけ、絶対従兄弟だというのは話すな。そういう関係だという事がバレると色々問題があるからな」
「……わかった」
改めて、俺は部屋から飛び出した。窓の外は夕日が眩しかったが、まだ空は青かった。
急いで、五階に駆け上がり彼女の病室に向かった。ドアをノックして、返答を待ってから入る。彼女は待っていましたという顔をしていた。そして、真剣な顔になる。
「先生と、何を話してのですか?」
「え、あっ……ちょっと、色々……」
俺は明らかに動揺していた。丸椅子が部屋の端に片付けられていたので、収納棚にもたれかかる。
「……あたしの事ですか?」
「……まぁ、うん。ごめん」
俺は彼女から目線を逸らしてしまった。お互いに沈黙。空気が重い。
「……あたしといて、楽しいですか?」
彼女がゆっくり口を開いた。
「えっ?」
俺は彼女の言葉に驚かされた。
「楽しいに決まってるじゃないか」
「あたし、颯太さんの時間を無駄にしてませんか?」
俺の脳裏に電撃が走った。くらくらした。心臓の鼓動が急に早くなった。
「そんな事絶対にない!」
もたれていた体勢から、彼女のほうに向きかえる。棚がガタンと揺れて、何かが床に落ちた音がした。
「あ……」
俺と彼女は同時に声を出した。棚の上にあった花瓶を落としてしまった。幸い、陶器製でなかったため花瓶は棚の上に戻すだけですんだ。だが、中の水が床に広がっていた。
「拭くものはここです」
彼女の手には白いタオルがあった。
「ありがと……」
俺が彼女のほうに向かったとき、ぬれた床で足を滑らせてバランスを崩してしまった。足が完全に浮いてしまっていて、彼女のほうに体が傾いていた。このままでは――
お互いに目を瞑ってしまった。そして、俺は彼女を押し倒してしまった。その後、どうなったのか分らないが、暫く静寂が続いていた。なんだか息が苦しい。俺は恐る恐る目を開けてみた。彼女の顔がすごい近くにあった。丁度彼女も目を開けたところだった。その瞬間、お互いに目を丸くした。
何故なら――
「うわっ、ご、ごめんなさい」
俺はすぐに立ち上がり、彼女も少し身を引いていた。お互いに目をそらし、顔を直視できない状態だった。体がほてってきた。俺はさり気なくドアの方を見た。
「あっ……」
彼女の母親が立っていて、体を震わせていた。そして、俺のところに向かってきた。
「あなた、こんなところで、優衣に、何やってんの!?」
彼女の母親は区切れ区切れかつはっきりと俺を怒鳴った。彼女は悲しそうな顔をしていた。
「早く出てって! もう来ないで!」
俺はこのすごい気迫に負けて、荷物を持って足早に立ち去ってしまった。彼女に情けないところをまた見せてしまった。
病院から出て、建物を見上げた。ここから彼女の部屋の窓が見えた。
「あれ?」
その部屋の窓が開き、彼女が身を乗り出し何かを投げた。しかし、その瞬間に母親に引き止められ窓を閉められ、更にはカーテンも閉められてしまった。
ゆっくりと降りてきた何かを俺はキャッチした。紙飛行機だった。広げてみると、ケータイのアドレスらしきものと、『月見野優衣』と彼女の名前が書いてあった。家に帰ってから、送ってみよう。俺はそう思い、病院を後にした。
まだ、彼女を連れて行かないでくれよ。
――俺は『あの青空に祈りを捧げた』
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