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オレと兄貴と私がいるから 第7話
こんなオレにだってヒーローの一人くらいはいる。戦隊ものでもライダーものでもない。そう、オレが幼稚園児だった頃……
オレと三馬鹿トリオが近所の公園でよく遊んでいた。実は四人ではもう一人いた。一つ上の名前は……なんだっけかな。とにかくオレのとってヒーローだった。オレも三馬鹿もジャングルジムの天辺までは登れなかった。しかし、その彼は上りきり更に天辺で立つ事ができたのだった。
『俺はヒーローだ! 出来ない事は無い!』
今になっては馬鹿馬鹿しいかも知れない。当時のオレにはとっても彼が輝いて見えた。その頃だった。自分のことを『オレ』といい始めたのは。母さんも父さんも初めは抵抗があったみたいだったが、すぐにそれを認められたのは覚えている。
『お前はお前だ。駄目だと言う事無い。自分を信じろ』
父さんの言葉だ。オレはオレだ。
その彼とは暫く、仲良くやっていたのだが突然公園に来なくなってしまった。オレは寂しかったがいつかは気にも留めなくなっていたな。その後日に聞いた話だが彼は引越ししてしまったらしい。また、いつか会いたい。いままで、オレはそう思い続けていた。矛盾する事もあるが、それが今の気持ちだ。
それはともかく、姉ちゃんが家に泊まるようになってから二週間経った。家事も姉ちゃんが手伝うようになり、もう家族同然にもなっていた。
オレも姉ちゃんに教えられながらも受験勉強を続けていた。しかし、姉ちゃんは一日にやりすぎても仕方ないということで、塾も行っていないオレの一日の半分は家事をしてあんまり暇が無い。
内緒ではあるが、机の引き出しには今見に行きたい映画の割引券が入っている。
そんな、蝉の鳴き声も元気が無くなり夏休みも後半月ほどとなったある日。オレは自分の机に座り、割り引き券を見ていた。
「入るよ?」
ノックも無く突然、姉ちゃんがオレの部屋に入ってきた。オレは券を隠す時間も無く、あっさりと見つかってしまった。
「へぇ、映画に行きたいんだぁ」
「そ、そんなんじゃ、無いよ」
オレは一瞬で券を引き出しにしまった。それを見て姉ちゃんはその引き出しに手をかけた。オレはとっさに抵抗するが、虚しくも強引に開けられてしまった。中からは割引券の他に映画特集の雑誌『ザ・映画』が出てきた。因みに券はこの雑誌から切り取ったものだ。
「やっぱり、行きたいんじゃん」
姉ちゃんは意地悪そうに、オレに言う。
「……まぁ、時間は無いんだけどな」
そうオレが言うと、姉ちゃんは券を手に取り引き出しを閉めた。
「今日一日くらい勉強を休んでもいいと思うよ、それに、今日行かないと後悔すると思うよ」
「……なんで、後悔するってことわかるんだ?」
「それは……だって……今日はいい天気だし……ね」
明らかに姉ちゃんの言動がおかしかったが、あまり気にせずに出かけることにした。あまり人気は無い映画だから、券が取れない事は無いだろう。
「ありがとう姉ちゃん。じゃあ、行ってくるな」
オレは準備を整えて、家を後にした。