08/04/04

突出幼心あくりょうちゃん 最終話

〜最終任務あくりょうちゃん 最終話〜

僕はずっと、ずっと泣き続けていました。

太陽は少しずつ海に沈んでいきます。

「優……」

春香は僕をそっと抱いてくれました。何て情けないんだろう……

「帰ろうか……」

「うん……」


そうして僕たちの夏休みは終わった。


そして、新学期が始まりました。僕は心に大きな穴が開いたような気持ちのまま学校に来ていました。多分春香もそうです。

「ようっ」

僕が自分の席に座っていると、義樹に肩を叩かれました。

「おはよ」

どうしたって、元気に返事が出来ません。

「どうしたんだ? それにあくりょうちゃんの姿も見えないが……」

心配してくれます。

「それが――」

僕は、あくりょうちゃんを探して春香と一緒に橘海岸まで行って、あくりょうちゃんが消えてしまった事を説明した。

「そうか……悪かったな」

「いや、そんな事無いよ。心配してくれてありがとう」


という会話をしていると、チャイムが鳴って担任の先生が入ってきました。

「今日から新学期だな――」

僕はボーっと窓の外を眺めていました。


……


…………


………………あれ?


それを何かが飛んでいます。飛行機でも未確認飛行物体でもなく、それは……

「あくりょうちゃん!」

僕は思わず立ち上がりました。先生は不審そうに「どうしたんだ?」と声をかけてきましたが、そんなことはいいのです。あくりょうちゃんが帰ってきた。

あくりょうちゃんは満点の笑みでこちらに向かって……って、突然鎌を取り出して何やってるの? 何で振りかぶってんの? やめ、やめ……うわぁぁぁぁぁぁ!!

窓の粉砕とともに僕は見事に2枚に開かれました。床に倒れこみ、血の池が出来てます。でも、初めて深いじゃないと思いました。何故なら、彼女が帰ってきたからだ。

「お、おい! 大板、大丈夫か?」

先生。僕は大丈夫です。生きてます。僕は親指を立てて前に突き出しました。


幼くて幽霊のような少女。僕を鎌で斬って、貼って。どうしようもないけど、決して憎めない僕たちの子ども役。

「あくりょうちゃん!」

半分になっていて声は出なかったけど、伝わっていればいいな。

そして、あくりょうちゃんは僕の事を張り合わせ始めるのです。

「にはっ♪」


僕たちは、まだ変わらなくてもいいのかもしれない。寧ろ変わらないで欲しい。この日常を。










――その日の放課後。僕は白井さんに呼び出されました。

誰もいない教室に2人きり。

「どうしたの?」

僕は席に座っている白井さんに話をかけます。白井さんは僕の事を見上げ、眼鏡を直します。

「彼女のこと」

「あくりょうちゃんのこと?」

と、聞くと白井さんはゆっくりうなずきます。

「彼女はあの日。一度、石河春香の中に戻った。石河春香は一度切り離した純粋な人格を取り戻したかった。でも、彼女と出会い、一人の人間と認識していた結果。無意識のうちに再び切り離した。きっと、また彼女は石河春香の中に戻るかもしれない。でも、あなたが必要とすれば、また再び切り離す」

その後も色々話してくれたけどやっぱり、白井さんの話はよくわかりません。

でも、橘海岸で誰もいなかったのは白井さんのお陰である。ということだけはちゃんと理解する事はできた。

「わたしは見守るだけ」

白井さんはそういう人物なのだと、僕はわかった。

その内、あくりょうちゃんもちゃんと『一人の人間』となる日が来るのかな?

僕はその日が来る事を楽しみに待っている。

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