13/01/28

せくすちぇんじッ! 05


   *

「さあ、俺は家に帰ってきたぞ!」

 家に、だが。
 学校から徒歩十数分、そこに我が家がある。
 二階建ての一軒家で、ちゃんと自分の部屋もある。家族構成としては、俺と両親の三人だ。

「……しかし、だ」

 こんな格好になって受け入れられるのだろうか。
 ついでに、公園から下山するときは、遭遇したイカニモな奴らとの再会は果たされなかった。
 なかったのだが、この着慣れない――否、一生着ることのないないと思っていた、女子生徒の制服を着用して下校することになるとは……。大層緊張するものであった。
 いやー、ね。確かに、外見が女子の姿になったとはいえ、中身が男なものだから周囲の視線が気になって仕方なかった。もし、男の姿に戻って女子制服を着て歩いていたら。などと思うと、気が気ではない。
 そうでなくても、風が吹けばどうしてもスカートの注意を払ってしまい、男としての羞恥心が俺の心臓をえぐる。
 顔から火が出る思いをしながらも、どうにか家まで帰ってこれたのだが、玄関チャイムを鳴らす勇気が出ないでいた。鍵? ええ、今日は忘れましたが何か。
 とまあ、こんな感じで家の前をウロウロとしていたら、

「ちょっと」
「ひッ!?」

 後ろから肩を叩かれた! 驚きのあまりに、とんでもない声が出てしまうとともに、身体がビクリと震えてしまった。自分の耳に返ってくる声は、どう聞いても女子の声だよな……。
 ではなくて! 肩を叩くは誰だ!
 振り返って、その姿を確認する。

「おいおい、そんなに驚くことないではないか」
「え……と……」

 そこにいるは筋肉ダルマだった。
 気持ち元の俺より、背の高い気がするこの身体。それよりも、長身の巨体。
 角刈り頭に、ピタリと張り付き筋肉を強調するタンクトップ、強調され光る筋肉。
 今だろうが、元だろうが、こんな奴に抵抗する術がない!

「あ、あなたはどちら様でしょうか……?」

 やんわりと尋ねる。わからないときは聞くのが一番である。

「誰って、何を言う」
 いや、わからないです。
 通りすがりのボディビルダーとでも答えるんじゃないか? などという、俺の予想の斜めを上をいく回答が返ってくる。


 ――実の父親に向かって。


 え、父さん……ですか?
 何を言っているのかよく聞こえないです。

「え……は……お――わ、わたしの父親がこんな筋肉ダルマなわけがない!」

 くッ……。一人称にも気をつけないといけないのかよ。

「なんだと」

 キュ。

「この美しき筋肉を見続けてきたお前にそう言われるとは」

 キュキュ。

「思いもしなかった!!」

 キュキュキュ。

「いちいちポーズ取るな! キモイ!!」
「我が娘にも反抗期がやってきてしまったのかぁ!!」

 ポーズを取る筋肉が崩れて、片膝をついた。そして、片腕を天高く向かって差し出している。
 舞台の上だったら、スポットライトがその筋肉を輝かせていそうだ。しかし、残念ながらここは家の前である。
 しかも、俺はこの筋肉を見続けて育ったことになっているだと……信じられない。

「それはそうと、鍵よこしてよ。忘れちゃって」

 俺の父親がコイツになっているということは、鍵だって持っているはずだ。

「そうか、もう筋肉は見たくないんだな」
「出来れば、もう見たくない」

 ジトーとした目で見つめてやる。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 叫んで銀色に光る何かが投げつけられたのでそれをキャッチする。刹那、筋肉ダルマが夕日に向かって走っていく。

「母さんには筋肉を鍛えにいくと伝えておいてくれ……娘に認められるまで……!!」

 結局、鍛えるんかい!!
 ……キモいと言ったのに、更に鍛えにいくという発想がわからない。
 とりあえず、鍵は手に入れた。

「あ」

 が、父親があの筋肉ダルマだ。
 じゃあ、母親は?
 俺、父親と変わって、母親が変わってないわけがない。
 例えば、アレを超える筋肉とか……? それを考えると、家に入りたくない。

「でも、入らないわけにもいかないよな……」

 友人の家にあげてもらったり、どこかの店で一晩過ごすわけにもいかまい。
 じゃあ、入ったらすぐに自室へ逃げこんでしまえばいい。

「よし」

 5トンと掘られているダンベルのキーホルダーがついてる鍵をドアに差し込んで解錠する。やはり、この家の鍵だったか。
 自分の家なのに、ここまで緊張するのはゲームで次の部屋がボスの部屋なのかそうでないのか、という感覚に似ているのかもしれない。もっとも、セーブ機能という便利なものはない。

「ほぁぁぁぁぁぁ!!」

 意味不明な奇声をあげて、家に突入する。だがしかし。

「……あ、あれ?」

 普通だった。
 見覚えのある灰色のタイルの敷き詰められた少し狭い玄関。
 並んでいる靴さえ違和感を覚える程度である。ちなみに女の子っぽい靴と、やたらでかいサンダル、やたら小さい靴が並んでいる。
 てっきり、中に入ったら壁中にトレーニング器具が並び、血肉沸き上がる状態かと思いきや、そんなことがなかったのですっぽ抜けた感が否めないほどである。
 とりあえず上がってしまおうか。スニーカーからローファーに変わってしまい歩きにくかった靴を脱いで一段上がる。ついでに、靴下は脛程度の長さの白いソックスから、ひざ下までの黒ソックスに変化している。

「よっと……うがぁ」

 うっかり声を出せば、自分の耳に返ってくる声に頭を抱えたくなる。
 自分が発声しているのに、耳に届くは女子の声。
 それはそうとして、この玄関をいい匂いが包んでいる。醤油と砂糖の匂い。
 言わずもがな玄関から漂ってきているようで、母親がそこにいるということを物語る。
 さて、それでは問題。母親は普通なのでしょうか? 俺は問題なく違う、という答えに賭けるぜ。
 しかし気になるものは気になる。そのまま上の階の自室に向かうという事はできずに、滅多に立ち寄らない台所へと足を運ぶ。
 閉められたドアを開け、

「ただいま……あぁ?」

 開けて、砂糖醤油の匂いが一気に鼻に入ると同時に、俺の時間が止まった。母親の姿を見て。

「あら、おかえりなさい。ここにくるなんてめずらしいじゃない」

 台所"は"なんら変化がなかった。だがしかし、そこに存在している人間がおかしい!
 ご丁寧に『だんぼーる』と書かれた紙製の茶色い箱に乗っかって料理をする小さな女の子。それが、ここにいる。白い三角巾を頭につけて、子ども向けのキャラクターが描かれていそうなちんまいエプロンを身につけ、夕飯の味見をしているところであった。
「あ、あの……あなたはお母様でいらっしゃいますでしょうか?」

 わかってる。わかってるけど、確認しておきたい。これを黙ってスルーなどできるわけがない。

「なにをいってるの? しょうしんしょうめい、だれがみてもあなたのおかあさんです」


 ――この世界は狂っている!!


「……」

 俺は母親の言葉を聞いて、表情を変えることなく身体を反転させて立ち去る。
 背後から「ゆうはんはにくじゃがよ」という文章が聞こえたが、その意味を理解することすら難しく、呪文のようにさえ聞こえた。一時間前から始められればいいのに。
 なぜ、あんな子どもから俺が産まれたことになっているんだ……。
 筋肉ダルマと幼女の組み合わせから、俺が産まれてくるわけがあるわけないだろ!
 よたよた、うおうさおうと階段を昇る。一段一段踏みしめるたびに、この長い髪がゆっさゆっさと揺れて、非常に鬱陶しい。それに重い。
 どうなっている、これは悪い夢なのか? 夢ならばさっさと覚めてくれ。
 階段を上がって右手の部屋。それが俺の部屋だ。
 本棚、机、ベッド。俺が生活するために置かれ、そして落ち着ける部屋。さっさと、その部屋へと逃げ出してしまいたかった。もう、あんな幼女や筋肉ダルマの顔なんて見たくない。いっそ、寝てしまおう。
 やっとたどり着いた部屋の前。俺はドアノブをひねって一気に開けて……………………閉めた。その間、数秒も無し。
 自分の部屋で休息を得ようという俺の希望が潰えた瞬間である。
 何故だ。どうしてだ。やっぱり、この世界は狂ってしまっている。

「う、うわああああああ!!」

 絶望の部屋に、俺は勢いをつけて突入する。この現実を受け止めねばなるまい。
 入って、すぐに閉める。誰も入ってこないけど、閉める。

「う、うわあ……」

 しかし、この俺には少しまぶしすぎた。
 端的に言ってしまえば、部屋までが変化していた。
 どのように変化していたかといえば、ピンク一色。桃色の部屋となっていた。
 言うまでもなく、これは俺の趣味でなく、青色の部屋だったはずだ。
 なのに、カーテンがふりふりピンク。ベッドがゴージャスピンク。タンスにはピンクのくまのぬいぐるみ。壁紙まで薄らピンクである。俺だけでなく、部屋まで変わってしまうというのはどんな不思議体験だ。
 これが俺のスペースなわけがない。でも、ここが俺のスペースと認めざるを得ない。

「ぬはぁ……」

 カバンをベッドに投げるように放って、俺はベッドに顔面から落ちる。
 この柔らかさは俺のベッドで間違いない。でも、匂いもシーツも俺のものではない。それを実感するたびに虚しくなってくる。"俺"はどこに行ってしまったのだ。
 ベッドに倒れこむと、胸に違和感があるというところからも、やはり俺は男でなくなってしまった現実がつきつけられるようだ。
 どうしてこうなった。さっきから考えているが、結論が出るようなものではないもの確かである。
 ベッドに顔を沈める俺の姿は、第三者が見たら女子高生が落ち込んでいるというシチュエーションにしか見えないのだろう。
 こうなったのは、俺が『女になりたい』と想ってしまったからか? それは思ったけど、冗談じゃない。
 こんな急な形で叶う必要なんてないじゃないか。なったら嬉しいという感情が込み上げるかと思ったが、そうじゃない。
 父や母までを巻き込んで『元々、そういう家族であった』ことにならなくたっていいじゃないか。
 そんな、周りを巻き込んでまでも叶えたかったわけではない。俺一人が、女になれればよかったのに。
 ……しかし、だ。ここで一つ、疑問が生まれる。


 ――何故、俺だけがこの変化に気がついている?


 確かに、周りは『元々そうであった』かのようだった。
 でも、俺は元々はそうでないことを知っている。
 俺でさえ、ここまで困惑しているのに、自分が筋肉ダルマや幼女になって冷静でいられるわけがない。
 もしや、俺だけが不思議なアリス状態? 不思議なアリスがどんな話だったかすら覚えてないけど。

「……」

 ここまで考えて、考え疲れてしまった。部屋が変わってしまったとはいえ、ここが俺の部屋だ。続きを考えるのは明日にしよう。
 ということで、寝てしまおうかと思ったが、制服のまま寝てしまうというのは引けた。
 こんな状態になってでも、制服にシワがついてしまうことを考えるのは馬鹿げてるかもしれないが、明日になってもこの状況のままだったとしたら、シワのついた制服なんて嫌だ。そして、学校に行くという発想まで辿り着く俺。こんなに真面目な人間だったっけか。
 ま、さっさと着替えてしまおうか。
 腕を立てて、ベッドから転がるように立ち上がる。髪が邪魔だ!
 そして、スカートの裾を直してから……って、俺一人で着替えるというのに何故直す。
 誰も見ていないけれども、こんな醜態を晒し続けるなんてもう耐えられん。さっさと着替えてしまおう。
 ……でも、それって女子の身体を見ることに……いや、これは俺の身体だ。
 と、その前に着替えるものを探さないとな。
 この部屋で服を仕舞うものといえばタンスしかない。勇者よろしく物色をしようではないか。
 俺の部屋だが、何があるかがわからない。まるでゲームみたいだ。セーブがなければやり直しも出来ないがな。
 三段タンスの一番下を開けてみる。
 青いジーンズ生地のズボンが半分を占める。
 そして、残りを占めるのは暖色でズボンとは非なるもの。いわゆる、スカートというものか。スカートしか入っていなかったら、俺は羞恥心で明日まで生きていられなかったかもしれない。
 安心して、青色のズボンを……って、これ短い!? 太股を晒すことになってしまう程の長さ。そして、長いものは存在しないようだ。

「……」

 だが、スカートよりマシだ。仕方なく、ショートズボンをベッドに投げる。
 次の段。
 暖色のティーシャツやら、ふりふりした服が並んでいる。ついでに、スカートとの一体式――ワンピースもあったが、これはティーシャツでいいだろう。白色のな。
 雰囲気としてはやはり、男性物とは違うオーラを出している、気がする。

「……さて」

 残るは一番上の段だが、もう残っている洋服のジャンルは決まっている。
 そっと少し開けて、思い切り閉める。
 駄目だ。俺には刺激がキツすぎる……ッ!!
 でも、開けなければいけないものであるのは確か。それならば、今開けてしまっても変わらない……。
 女性物の下着が詰まっている。パンツだけでなく、ブラジャーまで入っているのは当たり前か。

「そうか、女になるというのはこういうことだったのか……」

 軽々しく女になりたい、なんて想ってすみませんでしたッ!!
 ……。
 …………。
 ……………………。
 ええ、それだけで戻れるとは思ってませんよ。
 ということで、着替えなければいけないわけで。
 下着は風呂上りでいいとして、シャツとズボンか。それだけでも、俺には難易度が高いぞ。

「さあ、脱ぐぞ!」

 この言葉だけであれば危険なカホリがプンプンとしているが、他に言葉が見つからない。
 まずはプレザーを脱ぐ……脱ぎたい。でも、うまくボタンを外すことが出来ない。何故だ?
 と、よく見たら合わせが逆になっているではないか。道理でいつものようには脱げなかったわけだ。
 男子と女子の服の違いというのはこんな所にもあるのか。必要なかったであろう知識がまた一つついてしまった。
 脱いだ服はそのままタンスの上にあるハンガーにかけてやる。適当に放置して皺になってしまうのは、やはり嫌である。
 ブレザーを脱げば、残るはワイシャツにスカートだけという、夏の学校でだらしがない女子生徒によくあるスタイルになる。
 これって、下着が透けて見えるんだよな……下着?

「お、おう……」

 先程、刺激が強いものを見たが、それを身にまとっているということにも気付かされてしまった。どおりで、胸から腰のあたりが締め付けられてるなーと思うわけだ。しかし、キツいからという理由で外しちゃいけないものなんだろうな……。
 外していいものだったら、女子の皆が皆つけていない。
 顔を下に向ければ、二つの膨らみが至近距離で目に入る。そして、それを包むのが水色のソレ。

「……」

 見ちゃいけないことはわかってる。でも、見えてしまうものは仕方がない。
 それと共に、次に脱がなければいけないのは下か。言ってしまえばスカート。
 チェック柄のそれの腰のホックを外して、チャックを一気に引き下げる。手を離せば、ストンと輪っか状になって床に落ちた。ズボンとは違う、男が履くようなことは無いものなだけに、見るだけで恥ずかしくなってしまいそうだ。
 しかも、下を見てしまえば、胸を包むものと同じ色をした三角形の布地が見える。
 ひとつひとつをいちいち認識していたら、頭が沸騰して蒸発してしまう!
 勢いのままにワイシャツのボタンも一気に外してベッドに放り投げる。
 ここで気がついたのだが、今の状態は下着だけを身にまとった状態。
 胸を包むブラジャー。そして、パンツ。
 なんだこの敗北感は……。男としてもう後に引けない場所まで来てしまった用な感覚すら覚える。俺は男だったのに、こんな下着を身にまとう時が来るなんて今この時まで思いもしなかった!
 さっさと服を着てしまわないと、目に毒だ。ということで、ベッドに放置してあったティーシャツを手にとって、袖を通してから首を……おや。

「ん……」

 うまく着れない。と言うより、長い髪がすごく邪魔をしている。しかも、大きめの胸がさらにティーシャツを着ることを拒むような気すらする。
 首を通したかと思えば、髪がまだシャツの中か……全部を出して、と。
 女子だからというより、この姿が面倒なのではないかとすら思えてくる。
 しかし、だからといって髪を切ってしまうというのは何故か気が引ける。
 ズボンはぴっちりとして窮屈だったが、よく履くものなので苦労なく履けた……が、どうしても見てはいけない部分が気になってしまったのは絶対に内緒である。
 ――バタンッ!!

「うわああああああ!!」

 着替え終わって一息つく暇もなく、背後の部屋のドアが勢い良く開かれ、その音に身体がびくついてしまう。

「なにをおどろいているの?」

 そちらの方を向けば小さな自称母親の姿がそこにあった。何故勢い良く開けた!

「それはいいとして、ごはんですよ。はるかちゃん」

 背が俺の腰程度しかないエプロン姿の小さな女の子がそんなことを言っている。

 夕飯だから呼びに来たのか……って、ん?」
「"はるか"って誰だよ」
「んま、おんなのこがそんなくちをきくんじゃありません!」
「……すみませんでした」

 まさか、こんなちっこいのに説教をされることになるとは……。しかも、頭を下げて謝るなんて。髪が重いんだよ。

「それで、お母様」
「なあに?」

 あ、露骨に嬉しそうにしている。

「このしょうがない私めに、フルネームでもう一度お呼びいただけないでしょうか」
「ええ、にしざわはるかちゃんですよ? だいじょうぶ?」

 え、にしざわ?

「苗字は東條じゃないんですか?」
「ちがいますよ。あなたはうまれたときからにしざわです。ほんとうにだいじょうぶ?」

 俺の額を触りたいのか、目の前の幼女が両手を上げて背伸びをしている。しかし、届きそうにない。

「大丈夫です。熱はないし、正常です」

 中身だけは。外見はもう全部おかしい。

「それならよかった。きょうのゆうはんはにくじゃがですからね」
「分かりました。母上」

 それで満足したのか、幼女は俺の部屋から出ていった。
 額には薄っすら汗が浮かび、今にも足から崩れてしまいそうにガクガクしている。
 無駄に緊張をしていたような錯覚だ。
 ……そして、幼女と書いて母親と読む女の子は大きな謎を残していったわけで。
 俺が東條秋斗という人間ではなくなっているという点。
 東條秋子だかそういう名前になっているのかと思いきや、苗字まで変わってしまっている。
 この身体がにしざわはるかという存在であり、では東條秋斗という人間はどこに行ってしまったのか。
 俺はここにいるが、俺を東條秋斗と認識してくれる者はいない。俺はうまれたときからにしざわはるかという人間であったことになっている。
 誰かの代わりになってしまっているのか? 東條秋斗はにしざわはるかという存在に変わった。
 ならば他の人間。言ってしまえば、両親も他の存在に変わったということか?
 でも、変化には気がついていない。俺だけが知っている。
 変化に気がつかなければ、元々そうであったのと何ら変わらない。そういうことなのか?

「……」

 クー。とお腹が鳴った。違う誰かになっていようが、人間であることには変わらない。腹は減る。
 腹部を抑えると、男であった時より、腰が細いことに気が付き、少し体温が上がるような錯覚を感じた。だがしかし、戻るまでこの身体と付き合って行かなければならないんだ。
 これだけで、恥ずかしがっていたら、もはや何も出来まい。
 覚悟を決めて、夕飯を食べて……………………。


 ――入浴という巨大すぎる壁があることに気がついてしまった。

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