13/01/27
せくすちぇんじッ! 04
*
「ふふふ……はっはっは!!」
まったく、愉快なものだ。
私が急に立ち上がって大きな笑い声を出せば、当然注目されるわけなのだが。
こうなるとは、誰が予想していた。誰が予想するか!
"コ"の字型、変わらぬ配置。変わらぬ場所に座る人間。先ほど来た残りのメンバーも定位置に座っている。
その部屋で、不思議な事がまさに起きていた。
――この部屋にいる人間全員の性別が入れ替わっている。
いや、厳密には人間が入れ替わっているという方が正しいだろうか。
当然ながら私も例外に漏れることなく、男になっている。
頭が軽く、髪が短くなっている。
身にまとうのは、北見少年が先ほどまで着ていたあまりセンスの感じられない男子制服だ。濁った色のブレザーとズボン。考えた人間はもう少し、まともなデザインに出来なかったものか。
男であった方が良いと先ほど想ったのは確かだ。しかし、叶うことのないからこその願望であった。
それが今、こうして簡単に叶ってしまった。そのことに動揺を感じる程だ。
「「会長、いつまでも立ってないでやることをしてください」」
「あ、ああ……」
いつまでも立っていたら注意されてしまった。
後ろの窓からオレンジ色の夕日を取り入れながら座る。
だが、そこにいた九久姉妹の姿はない。
代わりにいるのは、短く切った上で整えている眼鏡の少年と、彼に似た顔だが少しだけ活発そうな少年の浸りが座っている。
私だって流石に、平然としていられない時だってある。
「あー、すまぬが、名前を名乗ってもらえるか?」
「「は、はあ……一田ですが。早く作業に戻ってください」」
「ん、そうさせてもらうよ」
九久ではなく、一田と名乗った? それに、きっと双子だ。
髪型や眼鏡の有無が違っても、元から備わっている容姿に関してはごまかしようがない。
九久という少女が、一田と名乗った。そして、女性から男性に変化したのにもかかわらず、何事もない様子だ。
また、右側に座る者もまた異様だ。
ブカブカの女子制服をきた幼女と、小学生ほどの女子児童がそれぞれ座っている。
彼女らもまた、いつもここにいるかのようにせっせと書類を流し読んでいる。
そこには遅れてやってきた男子二人がいたはずだ。
それと、もう一人、か。"彼女"はまた変わった反応を示している。
肩にかかる程度の髪をしたヘアピン少女。部屋の端っこに設置してあるパソコンから手を離して、右を見たり、左を見たりと忙しそうだ。
ブレザーの端を摘んだり、スカートの裾をつまんでヒラヒラとさせている。"彼女"だけは、自分が別の存在になってしまったかのように顔を真っ青にしている。北見少年、君だな。
そのまま『北見少年、初めてのオンナノコ』を観察していてもいいのだが、流石に可哀想なので救いだすとともに状況の把握をしようか。
「あー、ちょっとすまない」
と、九久姉妹――いや、今は一田兄弟か、に声をかける。
「「……なんでしょう」」
苛立っているようで、声が荒い。
「用事があったのを思い出してしまってな、自分のノルマ分はこなすから、先に失礼させてもらうよ。施錠とかの後処理も頼む」
「「……わかりました。やっておきます」」
「すまないな」
本当はいけないことなのだが、書類を足元の自分のカバンへと収納する……おや、一回り大きくなっている?
「「お願いですから、今日の分くらいは終わらせてくださいね」」
「ああ、それはちゃんとしておく。それと」
真っ青な顔をする、少女の方へと顔を向けて、
「そこの少女も借りてくよ」
「え……ええ!?」
なんか、随分とオーバーなリアクションをしてくれる。
「……別に、とって食おうというものじゃないから」
「「卑猥です」」
「悪いことはしないから、荷物を取って一緒に来ること」
"少女"は渋々承諾したようで、足元のカバンを手に取った。
私は、小さな少女たちの方に顔を向けて、
「先に失礼するよ」
と声をかければ。
「おつかれさまでした」
舌足らずな反応が返ってくる。
複雑な気持ちになりつつ、あからさまに嫌な顔をしている"少女"の手を引いて、部屋を後にする。
ドアを閉めて、ここは二階。
階段を下りながら、まだ自分の身体を観察してる"少女"に話しかける。
「北見少年、だろ?」
「え……なんで、それを……」
やはり、私に気がついてなかったか。それは仕方あるまい、外見が異なればわかるはずがない。それに、他の人間は元々、その存在であるかのように振舞っているものだからな。
「私だ。西沢春香だ」
「会……長?」
「もっとも、外見は男……しかも、別の人間の身体なのだがな」
「それは、どういう……」
階段を降りきると、そこは昇降口だ。
ふむ、靴はどこにある。
「とりあえず、荷物を探って生徒手帳を出すといい」
「あ、はい」
私の場合、胸ポケット入っていたのだから助かる。
その生徒手帳には『東條秋斗』という名前が刻んであった。所属クラスや、現住所は一切変わっておらず、変化したのは性別と名前か。
「ありました。僕は『南部夏弥(なんぶかや)』だそうです。クラスや、家は一緒なんだ……」
「やはり、変わったのは性別……いや、人間が変わったというべきか」
私は顎に指を添える、少しだけ固い。
「それって……ひゃあ!!」
心配そうに北見少年が私を見るものだから、試しに少年の胸を触ってみる。
すると、すぐに顔を真っ赤に染め上げてしまう。
「何をするんですか!」
「いやいや、ちゃんと北見少年も女性になったのを確かめたかったものだからな」
「……セクハラですよ」
でも、まんざらでもない様子。これは愉快だ。
「まあ、この変化に気がついているのは私たちだけみたいだし、この状況を楽しむのがいいだろう。そうでもないと気が滅入ってしまうよ」
「いや、楽しむといったって……」
「例えば、帰って自分の身体を隅々まで見てみるとか」
「――ッ!? いや、でも、これは……会長の変態!!」
「はっはっは」
腕を組んで笑うが、無駄なモノがないのは本当にいいものだ……しかし、下のモノが少し邪魔かもしれないな。
でも、それを含めて楽しもうではないか。
「少年」
「……何でしょう?」
「一度、家に帰ってから落ち合わないか?」
それとともに、自分一人じゃきっと耐えられない。
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