09/03/30

暗黒の契約 第4話


事件が事件を呼ぶ。『加藤 祝詞(かとう のりと)』は手に入れた力を自由に使っていた。


杖を使用した彼によって黒板消しクリーナーを顔面にぶつけられた担任はそのまま病院へと運ばれていった。テストの時とは違った優越感に飲み込まれた彼はそのまま教室を後にした。もっとも、担任はいなくなったため皆、教室を出て行っているのではあるが……

いつも通りの帰宅ルートである商店街を歩いていた彼は、例の交差点へやってきていた。ここに来るのが早かったため猫はまだいない。仕方ないので暫く待っている彼。時間になると、猫はやってきた。ぎこちない歩き方である。

彼は大事な事を思い出した。あの冊子の和訳文である。


『そこで叶えた望みはその身をもって精算をすることになる』


猫は彼の正面まで来て止まった。彼は自然と強張った。それを見て猫は心配しているかのように鳴いた。いつもなら、それで彼は立ち去るのであるが、今日はしゃがみこみ猫の事を見た。

「もうすぐ、お前と友達になるかもな……俺の名前は加藤祝詞だ……」

静かにそう言った。それと同時に彼は立ち上がり、再び歩き出した。彼はあの冊子の和訳文の本当の意味に気が付き始めていた。

『その身をもって精算することになる』とは、遠回しに『叶えた望みがそのまま自分に返ってくる』という事を示しているのだと。

スイッチを押さなければいい。そういう考えもあったが、今になってはいつかは押されるという考えの方が強くなっていた。考えているうちに彼の家の前。近所にはパトカーが止まっていた。おばさんの家の前だ。彼は足早に中に入り、自分の部屋にこもった。何故か母親は家にいない。

「7……回」

彼は杖のカウンターを見た。『7回』彼は確認をすると、複雑な気持ちのまま杖をベットの枕元に置きそのまま自分自身も横になった。


彼は気が付くと何も無い真っ暗な空間にいた。彼の周りだけが照らされているように明るい。

「ここは、どこだ?」

不安になり彼は歩き始めた。いくら歩こうが何も無い。

ひたすら歩くこと小一時間。遠くに人影を発見することが出来た。自然に足が動いていく。ついにその人物の前までいくことができた。

「あ、あ……!」

彼は愕然とした。その人物は近所のおばさんであった。

「あら祝詞君、どうしたの?」

おばさんは何事も無かったかのように微笑みながら話しかけていた。

「な、んで……おば、さんが……」

彼は青ざめていった。力が入らない。震える手をズボンのポケットに入れた。しかし、杖は無い。その様子に気が付いたおばさんは背後から何かを取り出した。

「もしかして探しているのは、こ・れ・か・な?」

おばさんの話し方が何かおかしい。それにその手には手のひらサイズの杖があった。杖が一瞬激しい光を放った。眩しさに目を閉じた彼は光が納まると同時に目を開いた。おばさんの姿は無く、代わりに1匹の狐が彼の前にいた。

「よくも、よくも……私の人生をっ!」

狐は彼を目掛けて飛びついてきた。彼は反射的に180度回転して、全力疾走をした。運動神経も優れている彼は狐には追いつかれることは無さそうだ。

「畜生……畜生! ここはなんなんだ!」

彼は、ひたすら全力疾走をしていた。彼女から逃げ切ってもまだ走っていた。更に暫く走っていると、誰かに激突し相手を転ばせてしまった。

「すいません」

彼は手を差し出した。相手は手を取り、立ち上がろうとしていた。

「すまないねぇ、加藤君」

それは彼の担任だった。彼はすぐに手を離した。無論、体勢の悪かった担任は倒れ後頭部をぶつけた。今まで気が付かなかったが担任の後ろには彼のクラスメイトがいた。全員、黒板消しクリーナーを持っている。

「お前は、そんなものを使って……」

「皆を遊び道具にしてたのか」

「最低な奴だな」

「何回使ったんだ」

「信じてたのに」

皆、口々に彼の事をいう。彼は耳をふさぐが意味が無かった。

「頼む、やめ、俺が悪かっ、なぁ、おい……」

クラスメイトの全員が行進するかのように彼に近づく、彼は後退するのだが後ろには、狐と担任が待っている。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

彼は勢い良く起き上がった。全ては夢だったのである。息が上がり、動揺しきっていた。

「ゆ、め……夢だったか……」

もう、外は真っ暗になり部屋の中は殆ど見えなかった。彼はベットから降りようとしたのだが、何かを勢いよく押し飛ばしベットの下に落とした。

『カチッ』

彼は音を聞いて、気が付いた。落としたのは杖である。更には杖のボタンが押されてしまったのである。一瞬部屋が明るくなったと思ったら再び暗くなった。彼は先程まで無かった、何かの気配を感じ取った。

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