07/11/17

祭囃子〜記憶の隅に〜 第2話


数分も経たないうちに会場戻ってきた。設置されたスピーカーから祭囃子の音が流れていた。まず向かったのは、金魚すくい。

祐樹もまつりもすぐにポイが破けてしまった。屋台のおじさんが一匹ずつ金魚を袋に入れてくれたが、受け取らなかった。すぐに死んでしまうからだ。

わたあめ・りんごあめ・チョコバナナ・焼きそばと食べ物の屋台を回った。周りから見ればまつりと祐樹はカップルの様に見えるだろう。しかし、彼らはそんな事は気にしなかった。

祐樹はまつりの口にチョコがついているのを発見したがあえて黙っておく事にした。

そして、最後の屋台。

お面やアクセサリーがおいてあった。彼らは店の前で品を見ていた。

「いっぱいあるね」

と、まつり。

「そうだね」

と、祐樹が言った。

暫く品を見ていると店番のおじさんが話をかけてきた。

「やぁ、坊ちゃん譲ちゃん。お似合いだねぇ」

冷やかし口調に、祐樹とまつりは顔を赤面させて別々の方向に視線を反らせた。

「そんな、坊ちゃん譲ちゃんにはこれがいいかもな」

おじさんはそう言って、ブレスレットをそれぞれの手に手渡した。祐樹には青色ベースの、まつりには赤色ベースのブレスレットだった。

「特別サービスで安くしておくよ」



――祐樹は右手首にまつりは左手首にそれぞれ別の色のブレスレットをつけて、手をつないで森の中を歩いていた。

「ねぇ、祐樹。覚えてる? 数年前。祐樹が坂から落ちそうになったのって」

まつりは前を見たまま少し笑みを浮かべながら言った。祐樹は驚いたかのようにまつりの事をみる。

「何で、そんな事知ってるの? そのときにはまつりはいなかったはず……」

確かに祐樹は森のこの辺り、道の片方が坂になっているところで落ちそうになったことがある。しかし、この事を知っているのは当時の祐樹の友達。しかも、男子だけで遊んでいたので、まつりは知っているはずがないのである。

その時、静かだった森にエンジンを吹かす音が鳴り響いた。二人の背後からだ。すごい勢いで近づいてくるのがわかった。

祐樹は聞いたことがあった。夜になると人通りの少ないこの森でバイクを走らせる者がいると。今日は祭りがあるので森にバイクを隠していたのだろう。そう思っているうちにバイクのライトが二人の近くを明るくしていた。バイクと接触するまで一呼吸する時間も無かった。

「危ない!」

最悪な事態を防ぐために祐樹はまつりを両手で思いっきり押した。まつりは驚いた顔をして祐樹の事を見ながら後ろに倒れこんだ。その反動を利用して祐樹もまつりと反対方向へ体が動いた。そして、バイクはニ人の間をギリギリ通過してそのまま森の闇に消えていった。

まつりの側は普通の地面だったので浴衣が少し汚れただけで済んだ。しかし、祐樹の側は坂道でこのままではふもとまで転がってしまう。擦り剥いた・少し打ったでは済まないだろう。

「ごめん。まつりの事、結局思い出せなかった……」

ボソッと祐樹はつぶやいて目を閉じた。ここからふもとまで転がっていったら痛いじゃ済まないんだろうなと思い、意識が薄れた。

「祐樹!」

少女の声がした。誰かが、祐樹の腕を掴んだ。祐樹の腕を思いっきり引っ張った。祐樹は森の道に連れ戻された。祐樹は記憶の隅にあった何かを思い出した。

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