08/10/16
あの青空に祈りを捧げ 第29話
・親父プロジェクトその4〜始動〜
「あ、俺が行ってきます。誰か大体予想がつくので」
俊之君がそう言って玄関のほうへ向かっていった。俺は涙を拭って平然としていた(したつもりだった)。
玄関の開く音がした。俊之君と聞き覚えのある女の子の声がした。楽しそうに少し会話をした後、こちらに向かってきた。
「こんにちは、おじさん」
静香ちゃんだった。久しぶりに家に来たが、見ないうちに随分大人になっていた。静香ちゃんはケーキ屋の箱を持っていた。
「久しぶりだね。元気だったかい?」
「はい。後、これどうぞ。ケーキ、焼いてみたのですが美味しくできたかちょっと、自信がないのですが……」
そういって静香ちゃんは手に持っていた箱を俺に手渡した。開けて見てはいないがとてもおいしそう……な気がする。
「ありがとう。じゃあ、早速いただこうかな?」
俺は食器棚から3セットのフォークと皿を持ってきた。それらをテーブルにおいてケーキの入った箱を開けた。
おいしそうな白いケーキが1ホールが姿を見せた。俺は早速4等分にしてそれぞれの皿に盛った。
「っておじさん、流石に喰いきれないっすよ」
「そうですよ、おじさん」
俺は少し苦笑いをした。流石に喰いきれないよな。俺は頭をかいて、使い捨ての容器を持ってテーブルの上に置いた。
「とりあえず座ってくれ。喰いきれない分は、これに入れてもって帰ってくれよ」
そう言って俺はフォークを手渡した。2人が座るのを確認すると手を合わせてからケーキを口に運んだ。ふわふわのスポンジに程よい甘さでとろけるような生クリーム。
「美味い!」
と、叫んだのは俊之君だった。そして、フォークを静香ちゃんの方向へ向けていった。
「これ、本当に静香が作ったのか?」
その言葉を聴いて、静香ちゃんは頬を膨らませた。
「そうだけど、何? 信じられない? 私が作ってたところ見てたよね?」
今度は俊之君が信じられないような表情になった。俺は2人の様子を見ながらケーキをいただいている。
「あぁ、信じられないね。あんな、男と元気よく遊んでいたような奴がケーキ作りか?」
「悪かったね! いらないなら、返してよ」
静香ちゃんはテーブルをバンッと叩いて俊之君が食べているケーキの皿を取ろうとした。だが、俊之君は悟ると瞬間的に半分ほど残っていたケーキを口に押し込んだ。口が大きく膨張してとても苦しそうな顔をしている。
「あぁ!」
すごい悔しそうに、静香ちゃんは叫んでいた。俊之君はというと勝ち誇ったかのような顔をしていた。
「2人とも仲がいいんだな」
俺がボソッと言うと、静香ちゃんは「えぇ?」と皿を思ったまま声をあげ俊之君は咳き込み始めた。
「そんな事ないです!」
ほら、2人同時に答える。
お互いに顔を赤くして別の方向へ向けていた。
「茶化して悪かった。ところで、ちょっとついてきて欲しいところがあるのだが、運動がてらどうかな?」
俺は立ち上がって、2人に聞いてみた。2人ともいいですよと声をそろえて答えてくれた。
「じゃあ、早速行きますか」
俺たちはケーキを完食した後の皿を残して、とあるところへ向けて出発した。
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