08/10/15
あの青空に祈りを捧げ 第27話
・輝かしき日々
学校の帰り。伊知郎と次郎は鈴歌のいる病院を訪れた。
部屋は看護師に聞いて、すぐにわかった。
2人で争うかのように病室へ向かった。『512号室』だ。
病室に入った2人はまず、鈴歌の姿が目に入った。なんのも無さそうにベットに座る姿勢で小説を読んでいた。その2人に気がつき鈴歌は小説をすぐ横において、微笑んだ。
「何だ元気そうだな」
伊知郎は安心をした。次郎は喜びのあまり倒れこんだ。
「2人とも、私のために……でも……」
『でも』その一言で伊知郎も次郎もハッとして、鈴歌の事を見た。
「私、肺に病気があって、手術をしなきゃいけないんだって。成功率は高いけど、その後、長く生きていける確率は低いって……」
静かに鈴歌は言った。3人は無言になった。聞こえてくるのは外の風の音くらいだった。
「そうか……でも、暫くは生きていけんだろ?」
伊知郎の質問に鈴歌は首を縦に振った。
「なら、ずっと俺らといようぜ。最期まで一緒にいてやるから」
次郎の言葉に鈴歌は首を縦に振った。
――その後、鈴歌の手術は成功した。
伊知郎も次郎も暇さえあれば鈴歌と一緒にいた。2人だけでも3人揃っても……
――そして、ある日、伊知郎は次郎に呼び出された。
体育館裏で2人きり。喧嘩を始めようという訳ではない。
「なぁ、伊ちゃん」
真剣そのものの顔で次郎は言った。
「なんだ? こんなとこに呼び出して」
突然呼び出され、疑問の顔を浮かべる伊知郎。
「鈴歌を幸せにしてくれないか?」
「次郎ちゃん? 突然何を……」
困惑する伊知郎。全く意味がわからなかった。そして、次郎は紙を伊知郎に手渡した。
「これって……」
まさしく、『婚姻届』だった。保証人の蘭には次郎と次郎の親父さんの名前が書いてあった。後は、伊知郎と鈴歌の名前と住所を書けばいいようになっていた。
「やっぱり、鈴歌を幸せに出来るのは伊ちゃんくらいだ。だから、俺はそのサポートに回るだけだ」
「次郎ちゃん……」
伊知郎は複雑な気持ちになった。3人仲が良かったときには戻れなくなるかもしれない。不安の気持ちと少しの嬉しい気持ちと。
「けど、保証人は成人である必要があるらしいからさ、提出は後3年はいるからな」
「……だな」
2人は体育館の裏で笑いあった。語り合った。高校3年生の冬の事だった。
そして、5年後。次郎のサポートもあり、伊知郎と鈴歌は結ばれ、子どもも生まれた。
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