13/01/25
せくすちぇんじッ! 02
*
「さあ、今日の活動を始めようではないか!」
"コ"の字の配置された机の縦棒の部分。それが私の席だ。
大きな窓を背に、私――西沢春香(にしざわはるか)は腕を組んで周りの人間に声をかける。
黒く腰まで伸びる髪がなびいて、黒色のセーラー服のスカートが揺れる。
「「……いいので、書類のチェックをしてください」」
左側に座る、会計係の少女が二人。似た顔をしており、名前は九久美右(ここのくみう)と美左(みさ)という。たまたま同じ名字というわけではなく、双子なのだ。
二人揃って同じタイミングで私に言ってくれる。一つ下級生いえど、容赦ない。
そのまま右側、一人の気弱そうな少年がため息を吐きたげな表情でこちらを見ている。
「会長も、三年生なんですから、ちゃんとしてください」
彼の名前は北見冬樹(きたみとうき)、役職は雑用ということにしてある。
「ははは、すまなかったな」
そのまま着席する。
もう二人ほど男子生徒が来る予定だが、まだやってくる気配がない。
ここは教室の一つで、壁際にはたくさんの棚と紙類がたくさん詰っている。
そして、目の前にも紙の束。部活の活動承認やら、部費の承認やらたくさんすることがある。
そう、ここは生徒会室。一般の生徒には足を運びにくい部屋であり、私こそがこの南高校の生徒会長である。
先日、一年生が入学してきたため、彼らの名前を覚えたりすることはたくさんだ。
私も九久女史も、書類とにらめっこして不備がないかのチェックと押印をずっと行なっている。
教師どもでやっていればいい仕事までこっちに回してくれるから、仕事の終わりが見えてこない。
「会長、お茶です」
「ああ、ありがとう」
そう言って、机に茶の入った湯のみを置くは北見少年である。特に仕事があるわけでなく、乱雑になりがちなこの部屋の掃除やら、色々をしてもらっている。
手の回らないところまでやってくれるので無くてはならない存在である。
「少年」
「はい? なんでしょう?」
それともう一つ。
「今日も可愛いぞ」
「え……何を言ってるんですか!」
緑色っぽいブレザーに、濁った色のズボンを履く男子生徒であるが、男性というには後何年か必要そうな顔をしており、いじり甲斐のある性格をしているので、私にとっての癒しの要素もある。
「そろそろ、胸が大きくなりだしたりするんじゃないか?」
「しません! 僕は男です!」
胸の辺りをつついて見るが、無論無い。無駄な脂肪すらない。
「ふふふ、君が女性で私が男だったら、もっと楽しいことになっていただろうな」
「なりませんし、それはもうセクハラです!」
「「いい加減にしてください!」」
そんなやり取りをしていたら、九久姉妹に怒鳴られてしまった。
「こんなんだから」
「仕事がたまる一方なんです」
「ふむ、そうだな」
にこやかに、返す。怒られようとも、余裕がなければどうしようもないからな。
「会長は気楽でいいですよね」
「そりゃもう、北見少年がいるからな」
「……」
その余裕があれば、他の者をそれに応えてくれる。
だからこそ、この生徒会という仕事が楽しいのだ。
それと強いて言えば、だが。
――なぜ、私は女なのだろうか。
生徒会長は男女どちらでもいいのだろうが、やはり引っ張っていくのであれば男である方が、相応しいのではないかと、私は思うのだよ。
気のせいかもしれないが、少なくとも私は男性に引っ張ってもらったほうが説得力があると思う。
「そうだ、会長」
「ん、なんだ? デートの誘いか? 喜んで受けるぞ」
はっはっは、と冗談じみて聞いてみるが、少年は顔を真赤にしてしまったぞ。
そんなに、刺激的なことを言ったつもりはないのだがな。
「違いますから! 東高からの伝達があったの忘れてました」
「なんだ、その程度か」
「いや、その程度で済ませないで……というか、僕からのデートの誘いのほうが嬉しいんですか!?」
「そりゃそうだろう。北見少年でも男性は男性だ」
「僕でも……」
そんなに落ち込まないでくれよ。
少年がもっと可愛くなってしまうじゃないか!
「それで、東高からはなんと?」
ちなみに、東高とは電車で三駅ほどの距離にある高校である。
近さ故か、少なからず友好的な関係であり、近所の情報は共有したりもする。
女子制服のブレザーはこんな私でも可愛いと思えるデザインであった記憶がある。
「えと、最近バイクに乗った高校生が東高と南高の付近に出没しているから注意した方がいい、とのことです」
「ふむ、いわば暴走族か」
東南両方の高校にも免許を持っている者が多数いるが、野蛮な人間はいなかったはずだ。きっと、もっと遠くから来ているのか。なんの目的か?
余談であるが、私も免許は持っている。野蛮な人間がいれば元から絶ってしまってもいいのだろうが、今は新年度の始まり、他にやるべきことが多い。
生徒が被害に遭う前に対処しておきたいが、実態がつかめない以上動くわけにもいかまい。
「ありがとう、少年。東高には情報感謝すると返答しておいてくれ」
「わかりました」
そう言って、この部屋唯一のパソコンへと向かって操作をし始める。
いつもの風景といってしまえば、そこまでだが、今日は何か波乱なことが起きそうだな。
遠くからはエンジン音が聞こえる。
いつもなら気にしないはずのエンジン音。
願わくば、生徒に被害がでぬことを……。
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