09/03/30

暗黒の契約 第1話


フードで完全に顔を隠した少年が人通りの全く無い道に明るめの色で加工してある杖とノートのようなものを落としていった。


所は変わり、とある高校ののとある教室、定期テストの返却が行われていた。この学校は珍しいことに全ての教科を一斉に返すということになっているのだ。

そこで一人だけ注目を浴びる男子生徒がいた。彼の名は『加藤 祝詞(かとう のりと)』である。祝詞といういかにもめでたそうな名前にコンプレックスを抱き続け、それをカバーするために努力をしていた。

結果、数学95点・英語98点・国語97点。それだけには留まらず、家庭94点・保健99点ときたものだ。

「加藤。また、全教科学年トップなんだってな。どの教科も平均点が50点いくかいかないかだったのに、どうしてお前はそこまで――」

祝詞は毎回、友人たちにそう言われてきた。もはや、彼の名を馬鹿にする者は殆どいない。しかし、彼はこんな生活を憂鬱に思い始めていた。彼にとって1位というのは当たり前の世界になってしまい、彼と張り合う者もいない。非常につまらないのである。もちろん、こんな思想は贅沢なことである。


そして授業が終わり、その彼は帰宅ルートである商店街を歩いていた。最近ではいつもと同じ時間にとある交差点にたどり着くとぎこちない歩き方をする猫と出会う。挨拶をするのが日課になりつつあり、唯一の彼の楽しみと言っても過言ではない。

「ふっ、今日も元気そうだったな」

祝詞は猫との挨拶を済ませると、再び商店街を歩き始めた……のだが、今日は裏道を通りたくなったのだ。道を外れ裏道に入る祝詞。そこには古そうな杖と、無駄に分厚い冊子が落としてあった。

「どこかの、そういう奴が作ったのだろうか……」

彼はそう言ったもののその杖と冊子を手にとって、家に持ち帰った。


帰宅してそのまま二階にある彼の部屋に入った祝詞は杖を床に置き、冊子を広げた。そこには使い方と思われる英文が書いてあった。英文を見た瞬間ボールペンを持ち、その英文の下に訳した文を一気に書いていった。分厚い割には2・3ページ過ぎた後は白紙のページが終わりまで続いていた。

訳した文の要点を文章にまとめるとこうである。

『この杖は望みを何でも叶える杖である。この杖を持ち望みを述べるとその望みが瞬間で叶う。ただし、そこで叶えた望みはその身をもって精算をすることになる。この杖にはカウンターが内蔵されており、望みを叶えるごとに1つずつ数字が増えていく。精算したくなったら、カウンター横のボタンを押せばよい。くれぐれも度を越えた使用の仕方をしないように』

途中白紙のページには、シャーペンや鉛筆で何かが書きこまれているようだが字が荒くうまく読めない。一部マジックなどでも書き込まれていて、良く見ると悲痛の叫びのようなもののようだ。

冊子の方は一通り確認すると本棚に入れた。次に祝詞は杖を持ってみた。

「構造はこうなっているのか……こんなので、望みが叶うのだろうか……」

祝詞は窓の外を見ると、近所のおばさんが彼の家の前を歩いていた。買い物の帰りなのだろう。

「そうだ、試してみるか……」

彼の顔から微笑みが漏れてくる。祝詞は憂鬱な日々から開放されようとしていた。しかし、それと同時に――

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