08/04/27

魔女の契約 第1話


街が焼け、人が殺し合い、戦火となり、街を赤く赤く染め上げる。

その戦火を見下ろすように、何者かが高台に立っていた。

黒いローブを身にまとい、黒のとんがり帽子をかぶる女性。その肩には黒い猫が乗っかっていた。

「怖くない?」

女性はそう言って猫の頭を撫でた。

「大丈夫、怖くない。君の方こそ怖いんじゃないの?」

黒猫がそれに答えた。女性は帽子で一瞬顔を隠し、すぐに猫のほうを見た。

「そんな訳無いじゃない。こんなので怖がっててどうするの。何のために『わたし達』が頑張ってきたと思ってんの?」

「そうだったね。ごめん」

猫は苦く微笑みながらそう言った。

「じゃあ、行くよ!」

「うん!」

女性が右手を広げると、そこから箒(ほうき)が出現して、女性はその箒にまたがった。すると、この箒がゆっくりと浮き上がり、戦火広がる戦場へと向かっていった。

――彼女達は最後の戦いへと赴くのであった。

*

ほんの数十年前の別の場所。

大きな森の中に大きな建物がそこに建っていた。

建物周辺は木が切り取られていて広場のようになっている。広場にはたくさんの人間が綺麗に並んでいて、皆、黒いローブをまとい、黒いとんがり帽子を被っている。そう、ここは……


――魔法使い養成学校なのだ。


規則正しく並ぶのは魔法使いの卵達。その先頭には三人の初老の男性が三人机に腰を掛けていた。その三人の前では、手に杖を持ち、初老に指示された魔法を唱え火や雷を出現させる。

今行われているのは、このたび無事に研修期間を終えた生徒達の卒業試験である。

一人一人名前を呼ばれ、初老の三人の前へ出る。この初老の三人はそれぞれ学園長・教頭・理事長なのである。そして、既に渡されている成績や個人の特徴を書かれた資料を元に一分間の簡単な会話をした後三人がそれぞれいう、魔法を唱え見せる。

丁度、次の生徒の名前が呼ばれた。

「アルベルト君。前に来なさい」

「はい」

真ん中のせき座る学園長に呼ばれたアルベルトという少年が生徒の列から出てきて、三人の前に立った。アルベルトは緊張のあまり手に持つ杖を落としそうだ。

「アルベルト君」

学園長は自慢の長いあごひげをこしらえながら名前を呼ぶ。アルベルトは「は、はひ」と声を裏返らせて返事をした。

「そこまで、緊張する事はないよ」

学園長は資料を片手に微笑んでいた。

「君は冷気の魔法が得意のようだね。手始めに『氷の魔法(フリーズ)』の魔法を見せてもらおうかな」

という、学園長の指示にアルベルトは「はひ」と答え杖を構えた。

杖を回しながら呪文を唱え始めた。

足元に青色の魔方陣が広がり、冷気の白い靄が発生し始めた……が。

「あ……」

アルベルトは誤って杖を落としてしまい魔方陣が消え、見事に失敗してしまった。背後の順番待ちの生徒達からは残念そうな声や笑い声が聞こえてきた。

「うーむ」

学園長の表情が変わり、険しくなる。

次の教頭と理事長の指示もあまりよろしく応えることはできなかった。

そして、暫くの沈黙。

「合格だ」

学園長は微笑み、拍手をする。生徒達からも拍手や歓声が湧いた。

「おめでとう。これで君も一人前だ」

と、学園長が指を鳴らすとアルベルトの手元に合格を証明するバッチと鍵が出現した。

「あ、ありがとうございます」

そういって、アルベルトは涙を流しながら立ち去った。

合格基準は魔法発動の成功ではない。どれだけ、今まで努力をしたかを見られるのだ。また、この学校のこの学年の人数は千を越え、拍手や歓声はもはや騒音にしか聞こえないものだ。


次の生徒は。

「うーむ。残念だ。不合格」

「え、そんな。待っ――」

学園長が指を鳴らすと、その生徒は煙で包まれた。

暫くすると、煙の中からは大きな大トカゲが学園長を恨めしそうに見上げていた。

もう一度、指を鳴らすとトカゲの姿が消え去った。学園長の転移魔法によって別の場所へ移されたのだ。

「では、次……」


試験に落ちたものは容赦なく、人間以外の獣に姿を変えられ、魔力により無限に続く『無限空間』に檻の中に収容される。

この学校には『使い魔制度』というものがある。

試験に合格した生徒には鍵が渡され、この鍵で獣へと姿を変えられた者を一匹のみ檻から出し、使い魔として使えさせる制度がある。

使い魔には拒否権が無く。選ばれたらその者に使えなければならない。但し、使い魔は優秀だと認められれば元の姿に戻る事ができるため、必死こいて手柄を上げようとする。だが、元の姿に戻れる人数は微々たるものである。

また酷い場合、下僕や奴隷としても扱われる場合があるため、試験は決して落ちるわけにはいかない。まぁ、現実として全体の20%程が落ちるわけであるが……

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